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映画『斬、』 人を斬ることへ揺れる心

2018/11/16付 日本経済新聞 夕刊

前作「野火」で大岡昇平の小説を原作に戦争の過酷な現実を取り上げて話題を呼んだ塚本晋也監督の新作だ。今回は監督による初の時代劇となるが、幕末に生きる一人の若い浪人を主人公に、人を斬ることへの揺れ動く心情を生き生きと描き出している。

東京・渋谷のユーロスペースほかで24日公開(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

物語は江戸時代末期。世の中は新しい時代に向かって揺れ動いていた。江戸近郊の農家で手伝いをして食い扶持(ぶち)を稼いでいる若い浪人の杢之進(池松壮亮)は剣の修練に励み、農家の息子の市助に剣の稽古をつけていた。杢之進に心を寄せる市助の姉のゆう(蒼井優)は、そんな二人を見て心配している。

ある日、杢之進たちは村の神社で果たし合いをする澤村(塚本晋也)を目撃する。杢之進は澤村の腕前に感心するが、澤村は揺れ動く京都に一緒に行く同志を募っていて、杢之進と市助の稽古を見て二人を誘う。そんな折、無頼の浪人集団が村にやってきて、市助と両親を殺害する。

ここから杢之進の心情が前面に出てくる。当時の武士は太平の時代が長く続き実際に人を斬る経験は稀(まれ)であり、杢之進もそんな侍だった。そのため、ゆうが仇(かたき)を取ってくれと頼むが、彼は躊躇(ちゅうちょ)する。やがて無頼集団と対決するが、澤村が無頼集団を斬り殺すのを見て、杢之進は心身ともにダメージを受ける。

この時、杢之進は木刀で戦うが、木刀と真剣との違いは明らかだ。塚本監督はいつもの手持ちカメラによる揺れ動く映像を活用しながら、鞘(さや)から抜く際の真剣の鋭利に響く音を巧みに使って日本刀の切れ味を見る者の身体に刻み込んで、映像と音の両面から戦いの戦慄を喚起している。

冒頭は刀鍛冶が熱した鉄塊を叩(たた)いて伸ばすシーンから始まる。塚本監督の出世作の「鉄男」を思うと、やはり鉄が大きなモチーフになっていて興味深い。1時間20分。

★★★★

(映画評論家 村山匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2018年11月16日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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