クイーンやクラプトン 伝記映画で分かるスターの素顔

2018/11/12付

時代を彩ったロックバンドや歌手など、音楽家を主人公にした伝記映画の公開が相次いでいる。華やかな舞台の裏に潜む葛藤など、意外なスターの姿がスクリーンに映し出されている。

1985年7月、英国ウェンブリー・スタジアムで開催された慈善音楽イベント、ライヴ・エイド。解散の危機にあったロックバンド、クイーンが再集結し、圧巻の演奏を披露した。

伝説のライヴを忠実に再現

彼らを主人公にした劇映画「ボヘミアン・ラプソディ」(公開中)はこのステージに向かうメンバーの姿から始まり、熱狂する大観衆を前にしたパフォーマンスで締めくくる。まるで記録映像のようだが、空軍基地にセットを作り撮影したものだ。アンプなどの機材から飲料カップの細部まで当日を忠実に再現し、ギタリストのブライアン・メイは驚嘆したという。

「伝説のチャンピオン」「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「レディオ・ガガ」など多くのヒット曲で知られるクイーン。映画はボーカルのフレディ・マーキュリーが、ブライアンとドラムのロジャー・テイラーと出会い、世界的な人気バンドに成長する過程が事実に基づいて描かれる。ロックにオペラを取り入れた代表曲「ボヘミアン・ラプソディ」がレコード会社から酷評されたことや、フレディを巡る男女の恋人と彼の病などの逸話も盛り込んだ。

ベースのジョン・ディーコンのふとした表情など俳優が演じるメンバーは本物そっくりだ。フレディ役のラミ・マレックは役作りに1年かけ、フレディの話すアクセントを知るため、彼の母親の話し方から研究したという。「フレディは超人的だが、誰かに包み込んでほしい人でもあった。それなら自分にも理解できると思い演じた」と語る。

配給する20世紀フォックス映画の星野有香マーケティング本部長は「40~60代のファンに加え、連続ドラマに楽曲が使われた影響で若い世代にもクイーンの認知度は高い。仲間とのきずななど、物語性の高さをアピールしてヒットに結びつけたい」と意気込む。

マリア・カラスの珍しい映像

抜きんでた実力とカリスマ性で伝説になったオペラ歌手、マリア・カラス。彼女の人生を描いた映画はこれまでにもあったが、「私は、マリア・カラス」(12月21日公開)は独特のドキュメンタリー映画だ。公私ともにドラマチックな人生を歩んだカラスを、プライベートフィルムなど珍しい映像と彼女の言葉だけでつないで表現した。

カラスの歌声にほれ込んだトム・ヴォルフ監督は、3年にわたりカラスの友人を探して世界中を旅して回った。そこで探し当てた400通を超える手紙や未完の自叙伝などを読み込んだという。「彼女自身の言葉ほど強く、印象的な証言はなかったから彼女の言葉だけで(映像を)つなぐことを決めた」と監督。

買い付けを担当した配給会社ギャガの扇谷千鶴アクイジション部長は「監督の深い知識と愛情が感じられたうえ、とにかくカラスの歌声が素晴らしかった」といい、迷わず買い付けを即決したという。

そのほかにもギターの神様エリック・クラプトンの半生を描いた「エリック・クラプトン―12小節の人生―」(23日公開)、バンドネオン奏者でタンゴの革命児アストル・ピアソラの「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」(12月1日公開)、歌手ホイットニー・ヒューストンの「ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~」(来年1月4日公開)など、今後も伝記映画が目白押しだ。

ギャガの扇谷部長は「日本の観客は文化に触れようという意識が高く、音楽映画は安定した人気がある」と話す。伝記映画が作られる背景には、人々が熱狂した音楽家たちが一つの歴史になった証しでもある。

(関原のり子)

[日本経済新聞夕刊2018年11月12日付]

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