映画『おかえり、ブルゴーニュへ』 ワイン巡る家族劇
セドリック・クラピッシュといえば、日本でも大ヒットした『猫が行方不明』以来、パリの青春群像ドラマをおしゃれな雰囲気のなかで巧みに物語る監督というイメージが強い。
だが、あれから20年以上経(た)って、クラピッシュも今年で57歳。ブルゴーニュのブドウ園を舞台に、ワイン醸造所の経営に四苦八苦する3人兄妹の姿を鮮やかに描きだす。彼の新境地といえる快作である。
冒頭がとくに美しい。10年前に故郷ブルゴーニュを捨てた長男ジャンの回想だ。ブドウ畑は毎朝違うというナレーションとともに、広大な畑の四季の変化がみごとに映しだされる。ワイン作りとは、この精妙な自然との関わりなのだ、と一瞬で納得させる素晴らしい導入部なのである。
そのジャンが10年ぶりに故郷に戻ってくる。父親の死が近いからだ。ワイン醸造の家業を継いだのは妹のジュリエット。弟のジェレミーは、家を放りだした兄のジャンを責める。
まもなく父親が亡くなり、ブドウ畑と家の財産をどう相続するかの問題がもちあがる。ジャンは高額な税金のせいで売るしかないと考え、ジュリエットは反対する。ジェレミーは妻の裕福な親からブドウ畑の買い上げを提案される……。
物語全編を四季の一巡の上に配し、ブルゴーニュの豊かな自然をあますところなく見せる。ワイン作りのトリビアも随所に織りこまれ、未知の世界の魅力に観客を引きこんでいく。
だが、そこに展開するのは、家族という今も昔も変わらない、じつに人間臭いドラマなのだ。
かつて根なし草のような若者たちを描いたクラピッシュだが、荒野をめざした青年もいつか故郷に帰る。そこには、親を見送り、子供たちの将来を見据える自分の役割が待っている。そんな普遍的なドラマを説得力豊かに造形している。1時間53分。
★★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2018年11月9日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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