映画『ポルトの恋人たち』 国境と時代超える愛憎劇
東日本大震災で町全体が避難を余儀なくされた福島県双葉町の被災者を追った「フタバから遠く離れて」2部作で知られる舩橋淳監督の新作だ。18世紀のポルトガルと21世紀の近未来の日本という時を隔てた愛憎劇を、同じ俳優の演技を通して2部構成で描いた意欲的な作品である。
第1部は1760年のリスボン。震災の復興の最中、貴族のガスパール(アントニオ・ドゥランエス)が極東から戻ってくる。連れ帰った召使いの中に宗次(柄本佑)と四郎(中野裕太)の2人の日本人がいる。やがて宗次は屋敷の召使いのマリアナ(アナ・モレイラ)と恋仲になるが……。
この物語の背景の1つは1755年のリスボン大震災。地震、津波、火災で9万人が亡くなり、リスボン市が壊滅した。大地が揺れることのないヨーロッパでは世界の終末と騒がれ、当時の哲学や思想に大きな影響を与えた。第2部の物語も東日本大震災の10年後であり、映画を貫いて通底するのは震災である。
第2部は2021年の浜松。自動車工場で働く日系ブラジル人の幸四郎(中野)はポルトガル人の妻マリナ(モレイラ)と暮らしている。彼の夢はポルトガルギターの店を出すことだが、日本経済は不況が続き、本社からきた柊次(柄本)から工場をリストラされ、また出店のための銀行融資も断られてしまう……。
この2つの物語は、18世紀と21世紀、ポルトガルと日本という時も場所も遠く離れているが、共に愛する人を奪われた女性が奪った者への復讐譚(ふくしゅうたん)として重ねられ描き出される。同じ俳優が演じることで、時代や国境を超えて起こりうる愛と憎しみの感情が浮き彫りにされていく。
映画はポルトガル、米国との合作。意欲的な試みゆえの観念が少々目立つが、演出も演技も手堅く、魅力的な世界になっている。2時間19分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年11月2日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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