カジダンへの道 家族の幸せと仕事の相乗効果
モバイルファクトリー社長、宮嶌裕二氏
起業家でありながら家庭人として時短家事を進める工夫を紹介してきました。今回が私の連載では最終回となります。最後に「家庭の幸せ度」と「業務成果」の関係について考えていきます。
私にとって一番大切なものは家族と事業です。会社を設立してから2回取得した育児休暇で実感しました。家事・育児が妻にとってどれほど負担が大きいものかを知っただけでなく、赤ちゃんの日々の成長を目の当たりにしました。長く家族と触れ合いたいという思いから、1回目は2週間でしたが2回目は2カ月間取りました。
自分が家事・育児に関わることで、妻の気持ちに余裕ができ、家庭にゆったりとした時間が流れます。起業家は24時間仕事を忘れられず、事業環境次第ではうつになる可能性が高いとも指摘されていますが、家庭が円満であれば気持ちがくつろぐ。私自身、家事に関わることで、夜もゆっくり眠れるようになりました。
現在、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術を使った新サービスに取り組んでいます。これも、昨秋の育休中に、社会や未来についてじっくり考える時間が取れたことで、新規事業に参入することを決断できました。
「家庭の幸せ」と「業務成果」には相乗効果があると思っています。
社長自らが育休を取ったことから、社内で取得しやすい雰囲気ができました。私が2カ月間離れる際、社長がいなくても会社がまわるように、自分が行っていた意思決定の権限委譲を進めました。社内の経営の意思決定が早くなり、業務の効率化が加速しました。
こうした環境整備で管理職の男性社員も育休を取得し、2016年度には男性社員の取得率は66.7%となりました。女性社員の育休取得率は15年度から100%を維持しています。業務効率化を進めて家庭で過ごす時間をつくろうとする社員も増えています。
そこで有給休暇とは別に、スポーツ観戦や誕生日など、リフレッシュに充てるカフェテリア休暇制度(年間6日)を設けました。有給と合わせた17年度の取得日は社内平均で18.5日となり全国平均の8.8日(16年調査)を上回っています。私も育休を取る前より働く時間を3分の1にしていますが会社の利益3倍が実現しています。
働き方改革が叫ばれ、仕事と家庭の両立が大きなテーマとなっていますが、「1日24時間」という限られた時間のパイの奪い合いとイメージされていることが少なくないように思います。業務や家事の合理化は、そもそも何を目指しているのか。時短家事の目的は「家族の幸せ」ということを明確にすれば、実りある時間を創出することは可能と思っています。
東京都出身、47歳。1995年大学卒業後、ソフトバンク入社。サイバーエージェントを経て2001年にモバイルファクトリー設立。育休を2回取得。5歳、3歳、1歳の3児の父。
[日本経済新聞夕刊2018年10月30日付]
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