残業80時間超の社員に通知 産業医の面談広がるか2019年4月から適用

企業にきちんと対応してもらうため、産業医の権限も強化する。産業医は労働者と面談した結果、健康リスクが高いと判断すれば、企業側に職場の配置転換などを含め、働き手の負担を軽くするための措置を指示することができる。

今回の法改正では企業が労働者に具体的にどのような対策をしたか、産業医に報告する義務ができる。対策をとらないのであれば、講じない理由を伝えなければならない。働く人にとっては具体的な対策をとってもらえる可能性が高まる。

日本人は働き過ぎといわれて久しい。日本の正規労働者の17年の総実労働時間は2026時間だ。IT(情報技術)の発達などで、業務の効率性は高まっているのに、10年前から大きく変わらない。週49時間以上働く人は日本は20%で、英国やドイツ、フランスより10ポイント前後も高い。

深夜におよぶ残業が月単位で続けば、多くの人は睡眠不足になる。判断力や思考力が低下し、仕事のパフォーマンスにも悪影響が出る。仕事のスピードが落ちれば労働時間が長くなり、また睡眠不足が深刻になるという悪循環が起きる。

働き方改革法では初めて残業時間に罰則付きの上限規制の導入が決まったが、単月で100時間未満までは認められた。単月100時間の残業は過労死ラインともいわれる。業務の繁閑で一時的に長時間労働が避けられない時もあり、労働時間を抑えるには働く人や企業の努力が不可欠だ。

働く人にとっては、産業医に面談しやすい体制が整うことで健康リスクの高まりを事前に抑えられる。

産業医の業務の具体的な内容や健康相談の申し出方法などをポスターやパンフレット、社内の電子掲示板などで労働者に周知することも義務付けられた。産業医の仕事について知り、働き過ぎで体調が悪いと感じたら尻込みせずに相談するよう心がけたい。

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選任進まぬ実態も

厚生労働省の2016年の調査によると、産業医の選任が義務付けられている従業員数50人以上の事業所のうち、約14%は実際には選任していない。努力義務の50人未満の事業所で選任しているのは5割に満たないとみられている。いくら役割を高めても、そもそも産業医がいなければ意味がない。

現在、産業医の養成研修・講習を修了した医師は約9万人いるが、実際に産業医として働いている人は約3万人と約3割にとどまる。選任する気のない悪質な企業もあるが、人脈がない中小企業は産業医をうまく見つけられない現状もある。

人手不足が深刻化するなか、企業が率先して社員の健康に投資することは企業価値を高めることにつながる。最近は産業医を紹介する民間サービスもある。厚労省は「選任が義務ではない小規模事業所も積極的に産業医を活用してほしい」と呼びかけている。

(島本雄太)

[日本経済新聞夕刊2018年10月31日付]

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