映画『ライ麦畑で出会ったら』 サリンジャー探す青春
1951年に出版。高校生のみずみずしい感覚で大人社会の「いやらしさ」を描き、当時の若者用語を駆使した爽やかな文体で圧倒的人気を博した青春小説が「ライ麦畑でつかまえて」。その著者であるJ・D・サリンジャー(1919~2010年)は、長らく隠遁(いんとん)生活を送って亡くなった。
少年時代にそのサリンジャーに会ったことがあるテレビ業界のベテラン、ジェームズ・サドウィズがこのときのことをモデルに脚本を書き、長編劇映画監督デビューした青春映画。
1969年、ベトナム戦争下の米国ペンシルベニア州。体育会系が幅を利かせる学園生活で、大好きな兄への憧れや親友のドラッグ使用を密告した後悔を抱え、孤独な日々を送る演劇少年のジェイミー(アレックス・ウルフ)は「ライ麦畑でつかまえて」に感動して舞台化を思いつく。相談された教師は著者サリンジャーの許諾が必要と言うが、この高名作家は人目を避けて暮らし、住所は不明だ。
サリンジャーを探す旅に出るジェイミーは、演劇サークルで出会った少女ディーディー(ステファニア・オーウェン)と行動を共にする。彼の家はこのあたりと見当はついたものの、近所の人々の口は堅かった。
旅の途中で日が暮れて、2人はモーテルに宿泊。そこでの出来事などを含めてエピソードの一つ一つに「ライ麦畑でつかまえて」の主人公ホールデン・コールフィールドの姿、しゃべり方が重なって見えてくる。やがてジェイミーはサリンジャー(クリス・クーパー)に対面、彼に自分の思いを伝えたのだが……。
全米にベトナム反戦デモが広がり、ドラッグが若者を蝕(むしば)み始めた時代だが、都会を遠く離れた田舎町では穏やかに時が流れている。そんな中にもやもやウンザリすることが淀(よど)んでいるのが青春。その様子が軽く語られて後味は悪くない。1時間37分。
★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年10月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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