大ぶりで濃厚な香りとうまみ 山口・秋穂のクルマエビ
山口市の瀬戸内海側にある秋穂(あいお)地区(旧秋穂町)の名産はクルマエビ。特に養殖は「発祥の地」をうたい、品質にこだわったクルマエビ料理が自慢だ。夏休みのクルマエビつかみ取り大会は訪日外国人にも人気で、参加する権利を得る抽選が40倍近いという一大イベントに成長している。
秋穂地区の旅館・料亭が出すエビのフルコースを求めて県内外から予約客が訪れる。クルマエビ料理専門店の料亭あさの、旅館のあいお荘、民宿しらいなどが代表的だ。
家族営業のあさののこだわりは天然ものを中心に客の予約時間に合わせて調理をするところ。生け作りのように跳ねて驚かれることも多い刺し身から塩焼き、フライがメインだ。同店の原田晴美さん(50)は「大ぶりな身の歯応えを楽しんでほしい」と語る。濃厚なクルマエビの香りとうまみを存分に味わえる。
10月は秋穂のクルマエビ出荷が始まる月。創業100年を超える旭水産は贈答用の発送に追われている。「このあたりの人は質のいいエビしか食べてくれない」と社長の八木政治さん(64)。イカなど吟味されたえさを選び、飼育環境に目を光らせる。
地元の業者は市場にはあまり出さず、贈答用が中心だ。安価な輸入品や大量に養殖している地域に押され、経営は厳しい。しかし、量を増やして質が落ちては意味がない。秋穂の業者は共同で3年前、「あいおえび」というブランドを立ち上げた。プライドを持って秋穂のクルマエビ生産を支える。
8月末、秋穂の海水浴場で1600人が1万6000匹のクルマエビに群がった。ツアーも組まれ、スペイン、中国など10カ国の選手も招待されている「あいおえび狩り世界選手権大会」だ。
このイベントの名物料理が昨夏、レトルトカレー「秋穂ココえび狩リー」としてデビューした。山口県央商工会青年部秋穂支部の面々による苦心作だ。ルーに高価な干しエビを使い、エビの殻を漬けたエビオイルを添付。「エビ感ではどこにも負けない」と、開発に携わった元支部長で現県商工会青年部連合会長の木原利昌さん(39)は話す。
価格は864円。質を保つため価格は譲らなかったが、道の駅あいおやインターネット通販などで年2000個を売るヒットとなった。東京の専門店から引き合いが相次いだが、秋穂に来てクルマエビを食べ、カレーを買ってほしいとの思いから、量産も県外販売も断った。秋穂に鉄道は通っておらず、車かバスで向かうしかない。しかしそこに本物がある。
秋穂が養殖エビ発祥の地といわれるのは、山口県萩市出身の農学博士、藤永元作が秋穂地区の塩田跡などで1963年に世界に先駆けてクルマエビの商業養殖に成功したためだ。それまでは天然の稚エビを捕獲して育てる「畜養」が一般的だったが、藤永は卵から育てる養殖を確立した。
アジア地域のブラックタイガーやバナメイエビの養殖も藤永の研究が基になっている。秋穂のクルマエビ生産は一時、年200トンを超えていたが、台風で養殖池が破壊されるなどして現在は年50トン程度だ。
(山口支局長 竹田聡)
[日本経済新聞夕刊2018年10月25日付]
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