「採れる保証なし」山形のマツタケ狩りに記者が挑戦
秋の味覚の最高峰、マツタケを食したい。せっかくなら国産モノに限る。店頭価格は1本1万円。金はないが健康だ。ならば自分で採ればいい。人生初のマツタケ狩りに挑戦した。
マツタケ狩りは、たとえ体験できても料理を注文することが条件であったり、採ったマツタケを持ち帰れなかったりすることがある。今回出かけた山形県高畠町の稲子(いねご)山は、2000円の入山料を払えば、採れた分はすべて持ち帰ることができる。2、3本採れば、東京からの交通費分は回収できる計算だ。
「採れる保証はできかねます」。高畠町観光協会の小林利裕事務局次長の言葉が、狩猟本能に火を付けた。午前8時30分。地元でマツタケ山と呼ばれる稲子山に登り始めた。下山したばかりの男性の手には顔ほどの大きさのマツタケが数本。コツは「松の根元の周辺で低木が茂り岩が転がる落ち葉の下を探すこと」という。「10分も登れば見つかるよ」。マツタケハンターから心強いエールを受ける。
最近、マツタケ狩りで遭難する人が増えている。必ず2人以上で向かい、許可された場所以外は立ち入らず、危ない場所は避ける。この原則を守りつつ、木の枝を握り地面をはうように上を目指す。足場を固めたら落ち葉を丁寧によける。「そろそろ1本」と、こんもりとした膨らみを発見するたびに高鳴る鼓動。だが目にするのは湿った枯れ葉のみ。気付けば4時間も山肌をはいつくばっていた。「親指サイズでもいいから」との願いもむなしく下山した。
同日の入山者は約50人。大半が5~6本を収穫していて、中には20本採った猛者もいた。すぐ近くにあるスーパーの店頭では、新鮮野菜や果物の横に20センチ大のマツタケの山が並ぶ。100グラムで6800円程度と、東京都内の百貨店の半値以下だ。
「今日は少ないですね」。驚く記者をよそに、フレッシュマートたねやの佐藤守重さんは話す。同店では地元の山の所有者が持ち寄ったマツタケを時価で買い取っている。マツタケってこんなに採れるのか、と思いきや「昔に比べると激減です。背負いカゴいっぱいのマツタケを担いで3往復し、その金でトラクターを購入した人もいたのに」と佐藤さんは懐かしむ。
マツタケが豊富だった1941年、流通量は1万2000トンだったが現在は数十トン程度。今や9割を輸入でまかなっている。国産マツタケの希少価値は高まるばかりだ。素人が両手にマツタケなどおこがましい。「眺めを楽しみながら『宝探し』に臨んでください」。今更ながら、観光協会の小林さんの言葉を思い出す。山登りを堪能し、筋肉痛の土産もできた。
ただ収穫がなかった分、マツタケ料理への思いは募る。そこで永谷園に助けを求めた。同社のロングセラー「松茸の味お吸いもの」は64年の発売以来、味を変えていない。最近では「マツタケ風」料理に欠かせない調味料として重宝されているという。
ネットで調べてみると、炊き込みご飯やうどん、パスタ、茶わん蒸しなどレシピは数え切れない。お吸い物のもとを調味料として売り込んだ立役者が、営業本部の小林佑さんだ。吸い物以外の使い道を探り、試行錯誤の末、様々な用途を見いだした。
「マツタケの魅力は風雅な香りに尽きる。その香りを生かせればどんな料理にも使える調味料になる」と小林さんは話す。その代表格がエリンギを使った「マツタケ風ご飯」。記者も食べてみたところ、エリンギの食感も風味もマツタケそのものに感じた。
料理研究家の島本美由紀さんによると、エリンギとマツタケは食感が似ているという。吸い物の顆粒(かりゅう)がマツタケの香りを再現し、風味もそっくりに。「これで十分」と思うのは錯覚なのだろうか。
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輸入品、冷凍で香りアップ
国産マツタケは、採りすぎや環境破壊で減少が続く。人工栽培が難しいといわれ、国産マツタケは珍重される。百貨店やスーパーに並ぶのは大半が韓国や中国、米国からの輸入品。価格は5株で3000円前後が相場だ。
料理研究家の島本さんによると、香りで劣る輸入品でも保存や調理にひと手間加えれば、香りやコクを高められるという。ポイントは冷凍。組織が壊れてうまみ成分が出るからだ。1本ずつアルミホイルで二重に包んで冷凍する。食べるのは1カ月後がベスト。土瓶蒸しや吸い物など汁物や煮物に向くという。
マツタケご飯は冷凍枝豆をさやごと加えて炊くと、香りや風味が強まる。たまには輸入品を使って"本物"を味わってみたい。
(佐々木聖)
[NIKKEIプラス1 2018年10月20日付]
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