映画『日日是好日』 人生と自然の機微、丹念に描く
前作『光』で幼い頃の忌まわしい記憶を通して人間の心の闇を描いた大森立嗣監督の新作である。今回はそれまでの起伏あるドラマから一変、新たな境地に挑んでいる。森下典子のエッセイを原作に、茶道を学ぶ1人の女性の心の成長を、しみじみとしたタッチで描いている。
題名の「日日是好日」とは、来る日も来る日も穏やかで楽しい日が続くという意味。映画は主人公の典子(黒木華)の大学時代から24年間の茶道の日々を描いているが、初日に見た掛け軸の「日日是好日」の意味がわからなかった典子がその真意を悟るようになっていく。
21歳になる大学生の典子は、母親の勧めで従姉妹の美智子(多部未華子)と一緒に茶道を習い始める。だが、お茶の作法や道具にズブの素人の2人は戸惑うばかり。そんな2人に武田先生(樹木希林)は、まずは「形」から始めて、次にそれに「心」を入れることを穏やかに諭す。
2年の歳月が経ち、茶道のしきたりに慣れた頃、典子は梅雨時と秋では雨音が違うことに気づく。また「瀧」という文字を見て、流れ落ちる水の轟音(ごうおん)を聞き取り、壮大な滝のイメージを抱く。典子は「形」という決まり事の彼方(かなた)にある世界を次第に悟っていく。
そんな茶道を通した典子の心の成長に重ねて、彼女の人生の出来事が描き出される。卒業、就職の失敗、美智子の結婚、婚約とその解消、父親の死、新しい恋の芽生え。そして45歳になった現在、典子は武田先生の初釜を迎える。
映画は典子の習い事の日々と彼女の人生の出来事を淡々と描きつつ、茶道に象徴される人生と自然の機微を丹念に映像化している。その世界が劇的な起伏に富んだ世界から離れているだけ余計に心に沁(し)みわたる。黒木華と亡き樹木希林とのやりとりが絶妙である。1時間40分。
★★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年10月12日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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