映画『クワイエット・プレイス』 重量感のあるホラー
非常に重量感のあるホラーである。
ひとつは技術力によるもので、ハリウッド映画としては低予算の部類らしいが映像と音(特に、この映画の設定では音が大事)で体感にうったえるちからは相当なものだ。
もうひとつは、ホラーでありながら家族のドラマをちゃんとした演出と演技で見せていること。
まず「89日目」という字幕が出る。地球になんらかの異変があったのか。
ゴースト・タウンと化した町。スーパーマーケットのような大きな、しかし無人の店で、一家5人だけが必要な物を採集している。
みんな裸足(はだし)で歩き、ことばを発さず手で合図・会話している。音を立ててはいけないらしい。異様なはじまりである。
町から農場の家に歩いてもどる(もちろん裸足で)途中、幼い次男が、店からもってきたロケットの玩具に電池を入れ、ハデな音を出してしまう。ほかの4人の顔に走る恐怖と警戒。しかし、もう遅い。男の子は襲われ、瞬時にかっさらわれる。絶望だ。
家族は4人になった。音を立てずに、くらしつづける。「472日目」となる。長女リーガン(ミリセント・シモンズ)が先天的に聴覚障碍(しょうがい)をもっていて、家族みんなが手話をこなすのも、サバイバルできた一因か。
しかし、母エヴリン(エミリー・ブラント)は妊娠した。まもなく生まれる生命は、一家に危険をもたらさないだろうか……。
襲ってくるものが、しだいに正体をあらわすと異様な音響がひびき、後半はハデな闘争が展開。最後までハラハラさせる。
重量感はあるが、極限状況を一家族のドラマに局限したところが、意外に弱点でもあったかも知れない。
監督は、父リー役もかねたジョン・クラシンスキー。母役のエミリー・ブラントと実生活でも夫婦。1時間30分。
★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2018年10月5日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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