歯ブラシで磨けるのは7割 40歳過ぎたら歯間ブラシ
「ミドル世代の体の元気は歯の手入れから」。日課になっている食後の歯磨き。だが、40歳代以降は歯周病で歯を失う人が増えてくる。働き盛りで歯科医院へ行く時間もなく、手遅れになりがちだ。効果的な歯のケアを習慣づければ、シニアになっても歯の数を十分に保って食事が楽しめるほか、様々な病気の予防につながり健康寿命を延ばすことができる。
「40歳を超えると抗菌効果がある唾液が出にくくなるほか、かむ力が衰えて口の中が汚れやすくなります。食べかすを栄養源とした細菌が増え、プラーク(歯こう)となり歯周病が悪化します」。80歳になっても歯を20本以上保とうという運動を展開する公益財団法人8020推進財団(東京・千代田)の高野直久専務理事(歯学博士)は警告する。
歯周病は働き盛りの年代の約8割が罹患(りかん)しているとされる。歯と歯ぐき(歯肉)の間の歯周ポケットにたまったプラークの中にいる歯周病菌で炎症が広がり、やがて歯を支える土台の「歯槽骨」が溶けて歯が抜け落ちる病気だ。
「加齢で歯が抜けるのではありません。毎日、正しく手入れをすれば、高齢になってもすべての歯が残せます」。公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(東京・墨田)の後藤理絵・健診事業推進室長(歯科衛生士)は企業などに出向いて正しい口のケアを指導する。
歯の病気の予防にはまず歯磨きだが、正しく歯ブラシを使っている人は意外に少ない。力まかせに歯の表面をゴシゴシこするより、ブラシの毛を2本ずつ当てて約20回軽くブラッシングする方が効果がある。
歯と歯ぐきの境目の汚れには歯ブラシを45度の角度で当て小刻みに動かす。毎食後に加えて就寝前は必須。睡眠中は唾液の量が減り、細菌が増えやすい環境になるためだ。
ただ歯の汚れは「歯ブラシだけでは7割程度しか落ちない」(高野専務理事)。年齢を重ねるとともに歯と歯の隙間ができてくる。食べ物がつまりやすくなり、細菌の温床になる。これを退治するために使うのが歯間ブラシだ。ゆっくり差し込み、ブラシ部分を水平にしてゆっくり前後に数回動かす。
「初めて歯間ブラシを試したら毛先に血がついて、傷つけたと驚いた」と50代の男性会社員は話す。ただこれは「歯周病で歯肉が腫れて少しの刺激で出血したため。痛みがなければ、継続すれば汚れが落ちて腫れが改善し出血もしなくなります」(後藤室長)。メーカーのライオンは不安を持つ人のためにゴムタイプの歯間ブラシを発売した。
同様に歯ブラシが届かない狭い隙間にはデンタルフロスが適している。奥歯には毛束が1つの部分磨き用ブラシ(タフトブラシ)と使い分けるのが効果的。
歯周病自体は虫歯と違い、進行しないと痛みを感じる機会が少ないため、軽視されがちだ。だが高野専務理事は「プラークは細菌の固まり。歯周ポケットの歯肉から、毛細血管に入って様々な病気を起こします」と注意を促す。
糖尿病や脳血管性認知症、狭心症や心筋梗塞など全身の病気と関係が深いことが明らかになっている。歯の手入れは重大疾患の予防にもつながる。
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定期健診受けて快適な老後を
50代から60歳代の約3割が口臭に悩んでいる――。ライオンが2017年に調査したところ、口臭を気にする人は「会話を控える」「大声で笑うのをためらう」など自ら行動を制限している。この嫌な臭いのもとは舌についた汚れが原因と思われがちだが、歯周ポケットに潜む菌から出る成分が、より少ない量で周囲に気づかれやすい悪臭を放つという。
家族からひどい口臭を指摘されても、歯に痛みがないと医療機関に足を運ばない人が大半だ。歯科医師や歯磨き製品の会社が口をそろえるのは「年に1、2回は定期健診に行こう」。誕生日や結婚記念日などにひっかけて受診すると効果的。治療のほか薬用歯磨きや歯間ブラシなどケア商品の選び方、歯磨き方法などもアドバイスしてくれる。東京歯科大の斎藤淳教授は40歳代以降に定期健診を受けることが「リタイアした後の生活を健康で快適に過ごせるかどうかを決める」と助言する。
(近藤英次)
[日本経済新聞夕刊2018年10月3日付]
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