アイドルも祭りも動画配信 地方民放がファン獲得策

動画配信した番組を地上波で流す試みも(中京テレビの「松井珠理奈のインスタ映え100枚チャレンジ旅」)
動画配信した番組を地上波で流す試みも(中京テレビの「松井珠理奈のインスタ映え100枚チャレンジ旅」)

地方テレビ局が動画配信に乗り出している。自社のプラットフォームでニュースやバラエティーなど独自コンテンツを配信。テレビ離れが進む中、ネットを活用し、生き残りをはかる。

北海道放送は7月から無料の動画配信サービス「もんすけTV」を始めた

北海道放送(札幌市)は7月に「もんすけTV」を開設した。同社制作の地上波番組の見逃し配信のほか、自社イベントのライブ中継など、約30コンテンツが無料で視聴できる。

2015年10月に在京民放各局が始めた見逃し配信サービス「TVer(ティーバー)」は視聴用アプリが1300万ダウンロードを記録し、普及が進む。同局の山岡英二メディア戦略部長は「(動画配信は)東京や大阪のものという認識では(地方局は)置いていかれてしまう」と危機感を口にする。自社プラットフォームを設け、運営するのは「ネットの世界の知見を得る」(山岡部長)ためだ。

災害時にも活躍

放送エリアが限られる地方局にとって、動画配信は自社を広く知ってもらう好機だ。観光客が多い土地柄を生かし「さっぽろ雪まつり」のライブ配信も検討する。山岡部長は「今は国内でしか見られないが、東南アジアなどインバウンド需要が高い地域でもいずれ配信したい」と意気込む。

9月6日に最大震度7を観測した北海道の地震を受け、もんすけTVでは地上波の放送を計13時間配信した。「災害時、テレビが見られない被災者の情報収集の場としても活用していきたい」と山岡部長は話す。

静岡朝日テレビ(静岡市)は15年に「SunSet(サンセット)TV」の配信を始めた。若手コメディアンを起用し、オリジナル番組を制作。ターゲットにテレビ離れが進む10~30代前半を据える。外部のサイトを経由して配信してきたが、今年4月に自社プラットフォームを設けた。「若い世代は見たいときに見たいものを見るのが当たり前。地上波だけ流せばいい時代ではない」と鳥居瑞穂コンテンツ戦略部アシスタントマネージャーは話す。

動画配信は地上波にはない番組を作るための挑戦の場にもなっている。同社は出演者にできるだけ制約を加えず、ゆるい番組作りを心がける。9月には40時間の生放送も行った。「テレビはつまらないと感じている若者に見てもらい、局のファンになってもらいたい」(鳥居アシスタントマネージャー)

地上波と連動も

地方局で、いち早く動画配信に取り組んできたのが中京テレビ(名古屋市)だ。16年9月に「Chuun(チューン)」を設け、これまでに3300本以上の番組を配信してきた。

当初は全国に自社のコンテンツを広めるのが主な狙いだった。しかし、「オリジナル番組はなかなか広がりにくく、反響があまりないものも多かった」(林義人インターネット事業部長)。開始から2年がたち、たどり着いたのが「ローカルへの回帰」(林部長)だ。

きっかけは高校サッカーの中継だった。チューンで愛知県大会の予選や抽選会の様子を流したところ、予想を超えるアクセスがあった。林部長は「東海エリアでより強いメディアであるために配信を活用しようという方向に変わってきている」と話す。同社では地域ニュースをチューンで流すなど、地元重視の姿勢を強める。

地上波と連動した取り組みも進む。地元を拠点とするアイドルが出演し、チューンで制作した「松井珠理奈のインスタ映え100枚チャレンジ旅」を地上波でも放送。ネット視聴になれた若い視聴者の地上波への回帰を促すとともに、番組制作の幅も広がった。

大きな可能性を秘める動画配信だが課題もある。一つが収益化だ。中京テレビの林部長は「何百、何千万ものアクセスにはつながらず、簡単にはビジネスになりにくい」と明かす。同社は企業を紹介するチューン向けのオリジナル番組を制作し、広告企画として売り込むなど新たな試みも始めている。

全国100余りの地方民放局のうち、動画配信に積極的な局はまだわずかだ。新たな発信手段をどう生かし、独自色を打ち出すか。取り組みが注目される。

(赤塚佳彦)

[日本経済新聞夕刊2018年10月1日付]