映画『散り椿』 西部劇の英雄のように

「劔岳 点の記」「春を背負って」に続く、撮影監督として知られる木村大作監督の長編第3作。葉室麟の同名小説に基づく映画化であるが、初めて時代劇に挑戦した。かつて脱藩した武士が昔の剣友仲間を助けて城代家老の悪政をただすという勧善懲悪の世界をまめやかに描き出している。

東京・有楽町のTOHOシネマズ日比谷ほかで公開(C)2018「散り椿」製作委員会

享保15年。かつて扇野藩士だった新兵衛(岡田准一)は、藩政の不正を訴え出て認められず流浪の身にあったが、亡き妻の最期の願いを聞いて故郷に戻る。故郷では城代家老の石田が相変わらず権勢を誇り、藩政を牛耳っている。

城代家老一派に対抗していたのは、側用人の采女(うねめ)(西島秀俊)。新兵衛の剣友であり、かつて平山道場で新兵衛と並ぶ四天王の1人だった。新兵衛は石田が藩御用達の田中屋と交わした証文を手に入れ、その証文を采女に渡す。

その一方、新兵衛が寄宿したのは亡き妻の実家。義妹の里美(黒木華)と義弟の藤吾(池松壮亮)は、当初は戸惑いながらも、やがて里美は淡い恋心を新兵衛に抱き、藤吾は武士としての生き方を新兵衛に学んでいく。ここから不正をただす男の世界に恋愛感情や武士の矜持(きょうじ)が添えられて物語に厚みが加えられる。

やがて若殿が江戸からお国入りするが、石田一派は若殿の命を狙って失敗。ついに新兵衛と采女は彼らと対決するというアクションシーンとなる。そしてすべてが終わり、新兵衛は故郷を立ち去っていく。

そんな新兵衛を里美が恋心を胸に秘めて見送るシーンを見ると、物語の骨格が西部劇などで見られた勧善懲悪のヒーローものに近いことがわかる。アクション、友情、恋心などが巧みに時代劇に溶け込んでいる。

オールロケによる全編は自然の重厚感がみなぎっている。とくに樹木の緑が美しく映え、撮影監督としての力量も発揮されている。1時間52分。

★★★★

(映画評論家 村山匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2018年9月28日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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