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ニッケイ料理って何? ペルー発、和食の進化形

2018/9/27付 日本経済新聞 夕刊

ゴマをまぶして和風にアレンジした海鮮サラダ(Tzuru)

和食が世界的にブームとなるなか、南米ペルーではペルー料理と和食が融合した「ニッケイ料理」という新たなジャンルが定着しつつある。主な担い手は両国の文化を知る日系人だ。ニッケイ料理は美食の町、ペルー・リマの食文化発展に寄与している。

リマ中心部のミラフローレス地区に、ペルーで最も予約が取りにくいといわれるレストランMaidoがある。高級車が次々と乗り付け、平日のランチの時間帯にもかかわらず、キャンセル待ちで並ぶ人が絶えない。2017年にはイタリアの飲料水メーカーが選ぶ中南米で最高のレストランに選ばれた。

ニッケイ料理の特徴はその完成度の高さだ。ペルー料理と和食を高いレベルで融合させており、「なんちゃって和食」とは一線を画する。

例えば、ペルー料理を代表する「セビーチェ」も、魚の切り方や調味料、ショウガなどの組み合わせで和風にアレンジ。しょうゆの香りがどこか懐かしさを感じさせる。逆に和食の素材にマヨネーズなど西洋の調味料を組み合わせる場合もある。盛りつけにも和食の技術がふんだんに生かされており、目で楽しみ、舌で味わうことができる点も現地の富裕層に受けている。

マヨネーズなどを使い、和食をベースに大胆にアレンジを加える(Tzuru)

高いレベルの融合を可能にしているのが、日本にルーツを持つ日系人の存在だ。ペルーは南米でブラジルに次いで日系人が多い。Tzuruのシェフ、マサノブ・ハマダ氏(38)は「日本の食材や調理手法をペルー料理に合わせるように心がけている」と話す。サーモンやアボカドにゴマをまぶすなど大胆なアレンジも特徴だ。

また、食材という点でも日系人の貢献は大きい。現在のペルー料理に欠かせないタコはかつては見向きもされなかったが、日系人が調理に使うことで次第に定着したという歴史を持つ。リマの中央市場を訪れると、店頭には白菜や大根など日本でおなじみの野菜が並ぶ。こうした歴史や文化の蓄積もニッケイ料理の定着には不可欠だ。

リマの中央市場では白菜や大根など日本の野菜が販売されている

もともとペルー料理は定型に固執することなく、他国の文化を採り入れることに寛容だ。40年以上にわたり伝統的なペルー料理の研究を続け、古都クスコでレストランPUCARAを経営する鈴木健夫氏(68)は「ペルー料理は時代に合わせ、若い人たちが発展させてきた」と語る。

漫画などサブカルチャーをきっかけに日本に関心を持つペルーの若者は増えており、もはやニッケイ料理は日系人だけのものではなくなっている。太平洋を隔てて地球の反対側に位置する両国だが、料理を通じ、心理的な距離は確かに近づいている。

<マメ知識>政府が「美食外交」推進
日本でもよく見かけるようになったペルー料理店だが、実はペルー政府が国を挙げて海外での普及を進めた「美食外交」の成果だ。かつてハイパーインフレや左翼ゲリラによるテロなど悪いイメージが強かったペルーだが、料理というコンテンツで国のイメージの向上に取り組んだ。2011年には米州機構(OAS)がペルー料理を米州大陸の世界文化遺産として登録し、その地位を確固たるものにした。現在ではペルー料理を農産品の輸出にも活用するなど、したたかな戦略が垣間見える。

(サンパウロ支局長 外山尚之)

[日本経済新聞夕刊2018年9月27日付]

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