くせなくコラーゲンたっぷり 熊本の天草ちゃんぽん
熊本県の天草諸島には、ちゃんぽんを出す店が100軒以上ある。発祥の地の長崎から海を渡って伝わり、豊かな海産物や地鶏を生かして広がってきた。「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界文化遺産に登録され、歴史探索と併せた食の楽しさを味わえる。
天草市の複合施設、ユメールの展望レストランの売りはウツボを豊富に使った「コラーゲンちゃんぽん」だ。漁協に長く勤めた調理担当の宮木ユリ子さん(69)が生み出した。ウツボは小骨が多いのが難点だが、宮木さんは独自に編み出した方法で手際よく取り除く。そうして調理した唐揚げが真ん中に載っている。
カレイの唐揚げに似ているが、皮と身の間にコラーゲンの厚い層があるのが大きな違いだ。スープはウツボを煮込んでだしを取り、豚骨スープと合わせたもので、くせがなく、さらっとしている。「天草以外ではつくれない味」と宮木さんは話す。
天草灘に臨む天草ブルーガーデン(天草市)では地元食材盛りだくさんのちゃんぽんが人気だ。大きなクルマエビが横たわり、豚肉はブランド豚のロザリオポーク。ほかにひら天、タコ、はんぺんなどが入っている。スープはブランド地鶏「天草大王」の鶏ガラをリンゴや野菜と一緒に4時間煮込み、とんこつスープを3割程度加えている。
店長の永田文明さん(67)は2013年に設立した天草ちゃんぽん連絡協議会の会長を務める。永田さんによると、天草ちゃんぽんの歴史は長崎とそれほど変わらない。長崎で奉公や修業をした人や木材の海運に携わった人から伝わり、「昭和30年代には専門店がいくつもあった」(永田さん)という。
上天草市のしろやま食堂は「3代続く昭和の味」がうたい文句だ。山口和子さん(74)が家伝の味を引き継いでいる。スープは昆布やかつお節などを基にしたしょうゆ味。「四郎ちゃんぽん」を注文すると、大きなクルマエビ2匹と天草大王のカツ3枚、キャベツやイカ、ホタテで盛り上がった丼が出てきた。天草ちゃんぽんは総じて量が多い。永田さんは「素朴な田舎の人たちのおもてなしの気持ちの表れ」と話す。
天草は観光客目当ての商業施設が少なく、俗化していない地方の魅力を味わえる。地元の人たちの思いが込もったちゃんぽんは非日常の旅の魅力を一段と増す。
ちゃんぽんは長崎市の中華料理店の四海楼が発祥の地とされ、現在は国内各地のほかソウルにも広がっている。鳥取のカレー味など特色を打ち出している地域も多い。その中で天草ちゃんぽんは、長崎市や長崎県雲仙市小浜のちゃんぽんと並び、三大ちゃんぽんといわれることもある。
天草市では2019年1月、全国ご当地ちゃんぽん連絡協議会の主催で各地のちゃんぽんを食べてもらう「ワールドちゃんぽんクラシック」が開かれる。天草の味への関心が一段と高まる契機になりそうだ。
(熊本支局長 佐藤敦)
[日本経済新聞夕刊2018年9月20日付]
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