展覧会、書物が主役 装丁や地図にも焦点 立体展示も
貴重な書物を工夫して見せる展覧会が相次ぎ催されている。書物同士の関係を分かりやすく示したり、デジタル技術で立体的にしたり。書物の性質や物としての魅力に光を当てている。
美術館がひととき図書館に変わったようだ。棚には膨大な数の書物が並び、メインの展示スペースには制作年代が古く世界に数冊しかないといわれる「稀覯本(きこうぼん)」が見開きで陳列されている。上野の森美術館(東京・台東)で開催中の「世界を変えた書物」展(24日まで)には本好きだけでなく、学生や家族連れなど幅広い世代が訪れている。
展示品は金沢工業大学の「工学の曙(あけぼの)文庫」にある書物が中心だ。1982年に設けられた同施設は科学者たちが重要な発見や発明を発表した初版本を中心に約2千点の書物を収蔵する。今回はそのうち特に知名度の高い著者による書物を約130点を紹介する。
知の連鎖たどる
ドイツの職人グーテンベルクが活版印刷を発明した15世紀後半以降、書物は大衆に知識を広める役割を担った。展示は古代ギリシャの哲学者アリストテレスの著作を集めて1490年代にイタリアで出版された「ギリシャ語による著作集」に始まる。最後を飾るのは20世紀初頭にあらゆる自然現象を一般的な法則で説明したアインシュタイン「一般相対性理論の基礎」。こうした「知の連鎖」が時代順にたどれる。
地動説を唱えたコペルニクス「天球の回転について」は、火星の軌道を証明したケプラー「新天文学」や望遠鏡を用いて月や天体について考察したガリレオ「星界の報告」に影響を与えた。こうした書物同士の関係を示した図を配り、来場者が「知の連鎖」を考えながら会場を巡れるようにもした。
会場構成や展示は同大学建築学部の宮下智裕研究室が担当し、約35人の学生が関わった。宮下准教授は「本単体としてではなく脈々と知がつながっていく系譜を見て欲しい」と話す。
装丁にも焦点を当てた。展示ケースをのぞくと、書物の後方に鏡があり、表紙・背表紙・裏表紙が映る仕掛けを施した。皮を装丁に用いた稀覯本の重厚さも感じ取ることができる。
模型に地図照射
アジアの歴史文献を広く紹介する東洋文庫ミュージアム(東京・文京)ではデジタル技術を使い、平面的な書物を立体的に捉える企画展を開催中だ。「大●(ハートマーク)地図展―古地図と浮世絵」(来年1月14日まで)で、江戸期の地図や名所を描いた浮世絵、西洋の地図帳や地誌が並ぶ。注目は日本大学理工学部の学生が制作したプロジェクションマッピングだ。
同館所蔵の地図で最も大きい4枚1組の「江戸大絵図」の1枚(約3メートル四方)を縮小・調整し、現在の東京北部地域の地形を示した立体模型に照射。江戸城や幕府直轄地が台地に位置する一方、大名屋敷は低い土地に割り当てられるなど標高と土地の関係が一目瞭然となる。同館の篠木由喜学芸員は「傾斜や区画を江戸と現在の東京で比べて楽しんでもらいたい」と話す。
書物の魅力を伝える展覧会は増える傾向にある。国立国会図書館(東京・千代田)では10月から「本の玉手箱―国立国会図書館70年の歴史と蔵書」が開かれる。美しい装丁が施されたケルムスコット・プレス「チョーサー著作集」や、杉田玄白「解体新書」など約180点をテーマごとに配置する。
歴史的価値の高い書物を掲載するビジュアル本「世界を変えた本」の監修を務めた西洋史家の樺山紘一印刷博物館館長は「展示される本にも傷みや書き込みなど人が接した痕跡が残っていることがあり、文字情報以上の価値を見いだせる」と指摘。電子端末でも本が読めるようになった時代だからこそ「かえってモノとしての本の価値が見直されているように思う」と話している。
(村上由樹)
[日本経済新聞夕刊2018年9月18日付]
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