映画『顔たち、ところどころ』 老若の旅 繊細で軽妙
「落穂拾い」「アニエスの浜辺」など独特なエッセイ風の映画で知られるアニエス・ヴァルダ監督が写真家のJRと共同監督した新作。かつてヌーヴェルヴァーグの監督として活躍した彼女は1928年生まれ。高齢にもかかわらず、その繊細で軽妙な映像感覚は今なお魅力に輝いている。
今回は、彼女がJRというストリートフォトの若い写真家と一緒にフランスの田舎を旅するロードムービーである。JRは世界各地で市井の人々を撮影して、引き伸ばした写真を街の壁などに貼るという手法で知られるが、その彼は1983年生まれ。年齢差54歳の楽しい2人旅である。
2人は撮影スタジオの設備が付いたJRのトラックで旅する。かつて炭鉱で栄えた北部の村では、一人暮らしの高齢の女性を撮影して、彼女の家の正面に写真を貼って飾る。あるいはル・アーヴルの港では、ストライキ中の港湾労働者の妻たちの写真を、積み上げたコンテナに貼り付ける。
家や壁に貼り付けられたJRの巨大な写真は、風景を一変させるストリート・アートとして、人々を驚かせまた楽しませる。その一方でヴァルダ監督は撮影された人々と語り合い、その姿を映画に収めていく。2人のまさに絶妙なコラボレーションである。
ヴァルダ監督は目が悪くなっているが、JRはいつもサングラスを外そうとしない。そんなJRの姿に、彼女は昔の「5時から7時までのクレオ」のC・マルシャンのサングラス姿やカメオ出演したJ=L・ゴダールのサングラスを外した姿を重ねてみせる。そんな遊び心を交えた世界を堪能させてくれる。
達観したように飄々(ひょうひょう)とした高齢のヴァルダ監督と、明るく気さくな人柄の若いJR。この老若の絶妙なコンビが田舎の人々の機微と触れ合いながら旅する姿は心地よく味わい深い。1時間29分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年9月14日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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