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もやし生産者として長い歴史を持つ長萌産業(長崎市)の山田正信社長によると、「もやし栽培は中国から伝わり、戦前までは中国の緑豆を使っていた」。戦後、中国との貿易が途切れ、代わってビルマ(現ミャンマー)産の黒豆が広がったという。

もやし消費に火を付けたのは1960年代以降のラーメンブームだ。特に「味噌ラーメンの人気で全国に広がった」(もやし生産者協会)。スーパーの登場と大量生産で価格が下がり、消費も伸びた。

この時期に市場を支配したのは、長くて細い「黒」もやしだった。ところが、日中国交正常化で緑豆輸入が再開。90年代に入ると「黒」優位の足元が崩れた。

きっかけは、89年に成田食品(福島県相馬市)が投入した「ベストモヤシ」だった。育成方法の工夫で軸を太く、根を短くした緑豆もやしの販売を開始。「見た目がよく、しゃきしゃきとした歯応えが消費者に受けた」(佐藤信一郎専務)。他社も追随し、今やもやしの9割以上を緑豆が占める。市場は文字通り黒から緑へと塗り替わった。

劣勢に立たされた「黒」。店頭でもあまり見かけないが、近年は根強いファンに支えられ、盛り返しの兆しが見える。

「緑豆もやしは水分が多い。黒豆の方が風味がある」。九州中心に焼きそばの店を40店以上展開する想夫恋(大分県日田市)は、1日約400キロを自社生産する。「広島の味は細いもやしじゃないと」。赤ヘルのカープファンが集う広島お好み焼き店でも、もやしだけは黒にこだわる。

黒復権の背景にあるのは、昔懐かしい味わいの再評価がある。さらに「経済復興で産地ミャンマーの栽培技術が上がり、黒豆の品質が向上してきた」(穀物輸入商社)と、国際経済まで絡んでいる。

この市場に最近分け入ってきたのが「黄色」。小ぶりの大豆を原料にしたもやしだ。

業界大手のサラダコスモ(岐阜県中津川市)は2016年、大豆を使った有機もやしを発売。「大豆イソフラボン」など機能成分を豊富に含む。健康志向も加わり、売り上げは2年で2倍に増えた。頭角を現してきた新興勢力の「黄色」。「緑」や「黒」を脅かす存在になるだろうか。

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もやし消費、日本経済映す

「最近のもやし消費と株価の動きを観察すると、株価上昇にもかかわらず消費者の節約志向が強いことが分かる」と第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一さんは分析する。「本来、景気と株価が上向けば、安価なもやしより一般の野菜の消費が増えるはず」(藤代さん)。ところが、最近のもやし消費額(総務省家計調査、2人以上世帯の月額)と日経平均のグラフ(6カ月平均)を見ると、株高でももやし消費が増えていることが見て取れる。

ただ、過去にさかのぼればおおむね「株高→もやし減」「株安→もやし増」の関係にある。「日本経済の今が、もやし消費に映し出されている」と話す。

(田辺省二)

[NIKKEIプラス1 2018年9月15日付]