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芸術性を追求、配信系作品に栄冠 ベネチア映画祭 日本大学芸術学部教授・古賀太

2018/9/11付 日本経済新聞 夕刊

金獅子賞のアルフォンソ・キュアロン監督「ローマ」

A・キュアロン監督「ローマ」が最高賞の金獅子賞に輝いた第75回ベネチア国際映画祭。芸術指向の映画祭に今年は配信系作品と歴史物が集まった。古賀太日大芸術学部教授が報告する。

この映画祭は、イタリア語を直訳すると「映画芸術国際展」。今年のベネチアはまさに「芸術」を感じさせた。監督たちが、自ら信じる世界を自由に追求した作品が目立ったからだ。

■監督裁量大きく

それは動画配信大手ネットフリックス(NF)やアマゾンの製作映画がコンペ21本中5本を占めたことにも表れる。これら配信系は、監督の裁量が大きいとされる。まず長さは5本とも2時間を超す。興行が大事な映画会社では厳しい。映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラは「ほかの製作者はこの表現の自由を保障できない」と表明した。

金獅子賞のアルフォンソ・キュアロン監督「ローマ」はNF製作で、1970年代のメキシコ市の「ローマ」地区に住む家族を描く。父の失踪以外に大きなドラマはなく、先住民のメイドから見た日常が続く。学生運動とその弾圧など時代背景もリアルで、白黒であることも含めてイタリアのネオリアリズモ映画のよう。「ゼロ・グラビティ」の監督とは思えない地味な自伝的内容で、配信系だから実現したと言える。

審査員大賞のヨルゴス・ランティモス監督「お気に入り」

同じNF作品ではコーエン兄弟の「バスター・スクラッグスのバラード」が、脚本賞に輝いた。西部劇へのオマージュを6話でユーモアたっぷりに見せるが、映画愛にあふれる内容は大きな興行には向かない。

審査員大賞のヨルゴス・ランティモス監督「お気に入り」は18世紀初頭の英国王室をブラック・ユーモアで描く。2人の「お気に入り」女性の間を揺れる女王を演じたオリヴィア・コールマンが女優賞も受けた。

■歴史物集まる

そのほか監督賞のジャック・オーディアール監督「シスターズ兄弟」は西部劇、ウィレム・デフォーが男優賞のジュリアン・シュナーベル監督「永遠の門で」はゴッホの晩年を描き、審査員特別賞と新人俳優賞のジェニファー・ケント監督「ナイチンゲール」は19世紀前半の豪州が舞台と、受賞作は歴史物ばかり。

他にもフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督「作家なき作品」はナチス時代から60年代までを描く力作で、コンペ中歴史物は14本に及ぶ。当然長尺が多く、2時間を切るのはコンペで4本しかなかった。

歴史物でも、「ローマ」が階級社会をシビアに描いたように、現代に通じるテーマが見えた。塚本晋也監督の歴史物=時代劇「斬、」は受賞を逃したが、地元のコリエーレ・デラ・セーラ紙が「抽象性と血、愛情とアクションの総合を目指した」と高く評価。上映では若い観客の熱狂的な拍手を浴びた。

日本大学芸術学部教授 古賀太

今回のベネチアは、カンヌがフランスで劇場公開されない作品をコンペから外したため、配信系の巨匠作品が集まった。「カンヌより上」という声も多かった。

巨匠作品も多いが、ジェニファー・ケント作品など若手の長編第2作が4本もあった。VR(仮想現実)映像のコンペは2年目を迎えた。新しい才能と方向を柔軟に応援する映画祭の意志が見える。

3大映画祭で配信系が初めて最高賞を取ったことも含め、今後の映画祭のあり方を示したのではないか。

[日本経済新聞夕刊2018年9月11日付]

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