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映画『1987、ある闘いの真実』 血が通う人物描写

2018/9/7付 日本経済新聞 夕刊

日本ではバブル期に入って間もない1987年(昭和62年)。オリンピックが翌年に迫る韓国。チョン・ドゥファン大統領の軍事政権下、反共の鬼、パク所長(キム・ユンソク)が指揮をとる南営洞警察治安本部の対共分室で、ソウル大学の学生パク・ジョンチョルが尋問中に死亡した。

東京・新宿のシネマート新宿ほかで公開中(C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

このとき87年1月14日から、民主化を求めて激化するデモに参加した延世大学の学生が警察の催涙弾を頭部に受けて重体になり、7月5日に死に至るまで。その間に起きる様々な実話を基に、フィクションも交えて本作は生まれた。

遺体を火葬にして拷問の事実を隠したい警察に対し、解剖を主張して譲らない地方検察庁のチェ検事(ハ・ジョンウ)。彼の意を汲(く)む新聞記者、刑務所の看守、聖職者、大学生、と多くの登場人物の不安や恐怖を伴う行動を描いて民主化運動の高まりを追っていく。

実在の人物と出来事を次々と重ね、畳み込むように語っていくキム・ギョンチャンの脚本をクライム・サスペンス『ファイ 悪魔に育てられた少年』(2013年)のチャン・ジュナンが監督して映画化。当時の状況を知らなくても他人事に思えなくなるのは、人物描写に血が通い、彼らの立場と心情が的確に描写されているからだろう。

息子が拷問で殺されたことを知った父親が凍(い)てついた川に遺灰をまくシーンの切ないまでの美しさ。上の者へのへつらいや賄賂のばら撒き、トカゲの尻尾切りがある。それでも学生たちの情熱や市井の人々のささやかな良心の積み重ねがあって社会は変わっていく。

思いを寄せる活動家の学生が負う重傷と死で気持ちが変化していく女子学生の姿、冷酷なパク所長が強固な反共思想を抱く理由など、小さなエピソードの一つ一つがドラマの陰影を濃いものにして、見る者の胸に深く突き刺さる。2時間9分。

★★★★

(映画評論家 渡辺祥子)

[日本経済新聞夕刊2018年9月7日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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