ドローン・宝石・サザエ… クレーンゲーム景品の秘密
ゲームセンターで人気のクレーンゲーム。実は業界ルールで景品価格を800円以下に制限しているのに、景品は大型化し、一見豪華な"ハイテクモノ"が相次いでいる。クレーンゲームの進化を追った。
8月下旬、東京都豊島区の大型ゲームセンター「セガ池袋GiGO」に開店前から行列ができた。お目当てはこの日登場した全長40センチの「名探偵コナン・メガジャンボ寝そべりぬいぐるみ」。海外でも人気のキャラクター景品を求める外国人の姿も目立つ。
キャラクターのぬいぐるみやフィギュアはクレーンゲーム専用品で市販していない。数に限りがあり、1週間でなくなるものもある。熱烈なファンには絶対に手に入れたいという心理が働くようだ。
菓子の限定品も人気だ。ナムコは「ベビースターラーメン伊勢海老をベビースター史上最高に練り込みました味」などをおやつカンパニー(津市)と共同開発。コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパン(東京・中央)とのアイスのコラボ景品もある。
クレーンゲームは1960年代半ばに登場した。当初はキャンディーやたばこなどだったが、90年代に「アンパンマン」など人気キャラが景品になり、ブームに火が付いた。以来、いかに話題を振りまくかで競い合っている。
ただし、景品価格には規制がある。風俗営業法の運用基準で「おおむね800円以下」となっているのだ。86年に200円、90年に500円、97年に800円になり、21年間据え置かれたまま。「射幸心をあおらず、高額景品で客を釣る不正業者を排除する狙いがある」(日本アミューズメント産業協会)という。
上限引き上げを求める声もある。だがセガ・インタラクティブの深澤光晴プロダクト研究開発部主査は「仕入れ値を上げたら景品を取りにくくせざるを得ず、満足度低下につながる。800円で魅力ある景品をいかに開発するかが腕の見せどころ」と説く。タイトーの児玉晃一社長室長は「半年後にどんなアニメや漫画が人気になりそうか、先を読む力も必要」と語る。
宝石からサツマイモまでユニークな景品があると聞き、埼玉県行田市のエブリデイ行田店を訪ねた。2階建ての建物内に49種類、377台のゲーム機を並べ、12年3月には「クレーンゲーム台数世界一」のギネス認定を受けた。
蚊取り線香など季節ごとの景品や「こうのす川幅うどん」「北本トマトカレー」といったご当地グルメなどがずらり。サツマイモも同県川越市の名産だ。9月からはテレビで話題のレトルトカレーを景品にして店内ですぐに食べられる「とれたてキャッチャー」との企画を始めた。
運営する東洋(同県北本市)はリサイクル店も手掛け、買い取り品の中で傷物や古いデザインで再利用に向かない宝石を景品に回している。ダイヤモンドやルビーなど本物の天然石でも市場価値はほぼ0円という。中村秀夫社長は「クレーンゲームで感動や笑顔も取って帰ってほしい」とアイデア勝負にこだわる。
クレーンを遠隔操作するゲームも出てきた。パソコンやスマホで操作し、獲得した景品は宅配。セガグループが昨年末に立ち上げた「セガキャッチャーオンライン」は6万4千人の会員を集めた。都内の倉庫に自社のUFOキャッチャーを60台並べ、常時4人のスタッフが4交代で24時間稼働。「1週間に150点の景品を獲得する」(榊浩一郎店長)利用者もいるという。
景品は約150種類。人気キャラに加え、ハンドセンサーヘリ、ドローン、自動床掃除クリーナー、ドライブレコーダーといった話題の商品の類似品をそろえる。高価に見えるが、海外に大量発注してコストを抑え、期間限定品として在庫を圧縮する企業努力で「800円ルール」を順守しているという。
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生き物提供 今では希少
道の駅ちくら・潮風王国(千葉県南房総市)に、サザエを景品にしたクレーンゲームがある。1回200円。「生き物の景品はは全国でここだけかも。物珍しさからプレーしていく人が1日数人いる」と宇畑延輝支配人。
5~6年前まで伊勢エビ、ハムスター、ミドリガメなどを景品として提供する店が各地にあったが、動物愛護団体の抗議を受け、ほぼ姿を消した。死ぬ確率が高いなどの問題もあったようだ。潮風王国でも水の入れ替えや掃除、機械のメンテナンスが大変だそうで「ゲーム機が壊れたら終わり」(宇畑氏)という。ちなみに、施設内の海産物売り場でサザエは1個300円で売られていた。
(竹沢正英)
[NIKKEIプラス1 2018年9月8日付]
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