おにぎりで世界を包め 気軽な和食、NYに専門店も
およそ2000年前の弥生時代に生まれたおにぎり。魚や肉、和も洋も具材に取り込み、今や健康志向の外国人にも広がる。新米の季節。日本のソウルフードでありファストフードでもあるおにぎりの魅力を探った。
どんなに混んでいても注文を受けてから握るおにぎり専門店がある。札幌市内に8店舗を構える「ありんこ」。創業38年になる。創業時から勤める87歳の女性が握り方を教えている。外はしっかり中はふんわりと柔らかく。南部均社長は「お客さんの顔を見て手で握る。これがうちの生命線。待つことが苦手な人には向いていないけど、苦情はないですよ」と笑う。
不動の1番人気は「チーズかつお」。具材は17種類あるが、注文の約2割を占める。24年前に亡くなった妻が「洋風の具を合わせたい」と提案した。以来、このシンプルな和洋折衷メニューが看板になった。口の中で和と洋、海と陸の幸が絶妙に融合してほどける。最近は「北海道を訪れる外国人観光客が来てくれる」(南部さん)という。
ホクレン農業協同組合連合会もおにぎりを売り込む。地下鉄などにステッカーを貼り、秋以降PRしていく。熊谷和也主食課長は「好きな具を選べるので外国人にはすしに近い感覚があるようだ。旬の食材を食べる文化を内外に広めたい」と話す。
おにぎりの歴史は古い。1987年に石川県鹿西町(現中能登町)で、約2000年前の遺跡から炭化した米の塊が見つかった。これが最古のおにぎりといわれる。平安時代以降は武士の携帯食として重宝された。江戸時代には弁当として旅人や農民の間で広がった。明治時代にのりを巻くスタイルが開発され、現在まで主流になっている。
おにぎりを語る上で欠かせないのがコンビニの存在だ。セブン―イレブン・ジャパンが78年にフィルム式の包装でパリパリのりの手巻きを商品化したことで、おにぎりはコンビニの主力になった。
関西では味付けのりが主流で、同社は2006年に味付けのりタイプを大阪などに投入した。17年度に過去最高となる年22億個を売った同社は「健康志向の商品を強化したい」と五穀米などを使った商品に力を入れている。
健康志向は外国人の心もつかんでいる。海外に和食文化を発信しているアグリホールディングス(東京・中央)はシンガポールとニューヨークにおにぎり専門店を構える。その名も「SAMURICE」(サムライス)。梅やおかかなど伝統的な具材に加え、パクチーを加えたチキンやベジタリアン向けの独自メニューも人気だ。前田一成社長は「おにぎりは和食普及の先兵」と位置づけ「健康的でおいしい携帯食。日本の農業や食文化と海外の顧客をつなげていきたい」と意気込む。
海外では「和食は高級」という印象が強い。だが、おにぎりを国内外に広めているおにぎり協会の中村祐介代表は「気軽に、歩きながら食べられる和食の塊」と表現する。「世界中のあらゆる具材と発想を取り入れられる」
おにぎりには個性派も続々登場している。自分でも作ってみた。まずは数年前から人気の「おにぎらず」。のりの上に具材を載せて挟む。おにぎり協会のレシピを参考に(1)しらすとバジルに梅ご飯(2)ポークたまごとトマトご飯――を試す。手軽さが売りだが結構手間取った。食べ応えはあり、味も悪くない。
続いてネット上で話題の「悪魔のおにぎり」。これは安上がりだ。天かすと天つゆにごま油、青ネギを混ぜて握るだけ。何が悪魔かというと、食べ過ぎてしまうからだ。そこまでではないが、簡単なわりにうまいのは納得できた。
実際に作って感じるのは自由度の高さだ。「和食の塊」を実感できる。ご飯は和も洋も、海も陸も様々な食材と相性がいい。あらゆるものを受け入れる懐の深さ。それこそがおにぎりの魅力だろう。
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だし人気も広がる
「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのが2013年。以降、和食の神髄ともいえるだしの人気も海外に広がっている。うま味も「UMAMI」で通じるようだ。アグリホールディングスのニューヨーク店では、コーヒーのようにドリッパーで抽出したかつおだしでつくるお茶漬けが人気だという。
このだし茶漬けはおにぎりで簡単にできる。コンビニで好みのおにぎりを買い、だし汁をかけ、かつお節を散らす=写真。手軽だが立派な和食だ。海外映画の食事シーンに、当たり前のようにおにぎりやお茶漬けが登場する日も近いかもしれない。
(大久保潤)
[NIKKEIプラス1 2018年9月1日付]
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