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めん覆う姿煮、染み込んだ甘いダシ 愛媛の鯛そうめん

2018/8/30付 日本経済新聞 夕刊

大皿から小さな木皿に取り分けて食べる(宇和島市のかどや駅前本店)

 愛媛県を取り囲む瀬戸内海と西方の宇和海は、天然の鯛(たい)や養殖鯛の一大生産地だ。その鯛をそのまま煮たり焼いたりして、そうめんの上に乗せた「鯛そうめん」は、古くからの郷土料理。県内でも地域によって調理の仕方や煮汁に特色があり、違いを味わうことができる。

鯛を煮込むかどや駅前本店の料理人

 県南西部の宇和島市。西日本豪雨の被災地の一つだが、市中心部にある郷土料理店、かどや駅前本店の厨房は豪雨後も変わらず活気があった。観光などへの影響も心配されるが、店長の杉山浩章さん(45)は「災害に負けず頑張っていることを知ってほしい」と意気込む。まず近海でとれた天然の鯛を煮込み、味を浸透させる。甘めのだしがこの地域の特徴だ。「しっかりした歯応えのある天然の鯛にこだわっている」という。

 大皿には、波を打つような形にそうめんを盛りつける。その上に煮込んだ鯛を乗せ、それを取り囲むようにネギやシイタケなどを配置すると、鯛そうめんの出来上がりだ。通常、5人前後で大皿から小さな木皿に取り分け、この木皿にだしを少々注いで食べる。祝い事や宴会の席に出されることが多い。

 調理の仕方やそうめんは地域によって違いがある。県中部の松山市中心部にある郷土料理店、五志喜を訪ねた。まず、鯛を焼いたうえで調味汁に漬けて煮込む。鯛を取り囲むように配置するのは山菜、ワカメ、おろししょうがなどだ。料理長の出来強志さん(64)は「煮汁は鯛そうめんにかけてもよし、少量ずつ鯛やそうめんを漬けて食べてもよし」とお好み次第という。

 同店で料理に使うそうめんは色鮮やかな「五色そうめん」。製麺業の五色そうめん森川(愛媛県東温市)が製造・供給元だ。緑、赤、白、黄、茶の5色で、抹茶や梅、卵、そば粉などから色をとっている。創業家の森川正史取締役(47)によると「少なくとも300年の歴史があり、料理店へ出すのは主に手延べめん」。五志喜とは現在、業務提携の関係だ。

 松山市内の日本料理店、すし丸では、家族やグループ客向けの大皿タイプのほかに、一人前用の鯛そうめんもメニューに加えている。切り身の鯛を焼いたうえで、だしに長時間浸し味付けする。そうめんの上に鯛とネギ、シイタケなどを乗せる点は同じだ。

 同店の三好哲生社長(57)は「一人前用をメニューに入れている店はあまり多くないようだ」といい、昼食時などにも注文が多いという。大皿タイプはお祝い事など食べる機会も限られるが、まずは一人前で鯛そうめんを味わってみるのもいい。

<マメ知識>「めでたい」×「細く長く」
 鯛そうめんは、水産業の盛んな愛媛県南西部の南予地域で、祝い事の際などに出されることが多かったといわれる。古くは江戸時代からあったとも伝えられ、愛媛県以外の瀬戸内地方にも同様の料理がある。鯛の一大生産地でもある愛媛県では、鯛飯と並んで代表的な郷土料理の一つだ。
 「めでたい」「ご対面」の鯛と、「細く長く続く」そうめんの組み合わせで、古くからお祝い事やおもてなしのためのおめでたい料理とされていた。大人数席で大皿から取り分けて食べることが多かったようだ。

(松山支局長 片山哲哉)

[日本経済新聞夕刊2018年8月30日付]

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