美術館入場に日時指定 数時間待ち解消へ試み相次ぐ
人気美術展は長時間待つのが当たり前……。そんな常識を覆そうと、あらかじめ日時を指定した入場券を売り出す展覧会が増えている。海外では一般的だが、日本でも定着するか注目される。
「JOJO展のチケット確保!」「後は当日に有休を取るだけ」。国立新美術館(東京・港)で24日始まった「荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋」。前売り券の販売が始まった6月、ツイッターにこんな書き込みが相次いだ。入場券が日時指定制のため、開幕直後の回は入手が難しいと予想されていたからだ。
当日券ないことも
JOJOこと「ジョジョの奇妙な冒険」は1986年に連載が始まり、シリーズ累計発行部数が1億部を超える人気漫画だ。約280枚の原画が出展される本展では、縦2メートルの新作12枚も披露されるとあって、開催前から愛好家の期待が高かった。
主催する集英社は「熱烈なファンが多いので、通常の美術展と比べて滞在時間が長く、大混雑が予想される」として、入場者数の分散を見込める日時指定制を採用した。前売り券は専用サイトや電話で希望日時を選び購入する。
映画や舞台公演と違い、通常の美術展は入場券があれば会期中はいつでも鑑賞できた。ただ、入場まで数時間待つ人気展が増え、日時指定によって待ち時間を短縮する試みが相次ぐ。
上野の森美術館(同・台東)で10月5日に始まる「フェルメール展」も日時指定制を採る。世界に三十数点しかないとされる作品のうち8点が展示され、人気が集まるのは必至だ。主催社の一社、フジテレビの吉野敏彦シニアプロデューサーは「入場前に長く待たされると、見る前に疲れてしまう。待ち時間を少なくし、来場者の『顧客満足度』を高めたい」と話す。
導入を後押ししたのは、昨年に同社が主催した「怖い絵展」の混雑ぶりだった。開館時間を延長したり混雑状況をツイッターで発信したりして緩和に努めたが、最長で入場まで3時間半待つ人もいた。
入場者は「午前9時半~同10時半」といった6つの時間帯から希望の入場時間を選ぶ。「JOJO」展と同じように、入れ替え制ではなく時間内に入場すれば閉館まで滞在でき、前売り券が完売した時間帯の当日券は販売しない。
海外でも人気の現代美術家の作品を集めた草間彌生美術館(同・新宿)。昨年10月の開館から日時指定で来場者を90分ごとに入れ替える仕組みを採る。館内が狭く、待てる場所も少ないことから、一度に入場できる人数を制限した。
「海外から来る人も確実に入場できて時間を有効に使える。ゆったりした空間でじっくり鑑賞できると来場者には好評だ」(同館)。混雑を回避できる効果もあった。ただ、当日券を販売しておらず、いきなり訪れて入場できなかった人もいて「日時指定制の認知度をもっと高める必要はある」(同館)。
不慣れな人に配慮
国内外の美術館運営に詳しい岩渕潤子青山学院大学客員教授は「日時指定制は欧米では1980年代には定着していた」と話す。一方、日本で広がらなかったのは「企画展ごとに主催者が異なり、料金体系などの調整が難しかった」(岩渕氏)からだ。主催者側には収入減につながる可能性もある。
ただ、日本でも海外の美術館で経験した日時指定制を便利だと捉える美術ファンは少なくない。交流サイト(SNS)で発信される利用者の声に美術館側も敏感になり、長時間待たせることは避けたい。
「今後は販売方法の周知徹底のほか、混雑しすぎないように配慮しつつ前売り券の販売状況に合わせて一定の当日券も用意するなど、きめ細やかな対応が欠かせない」と岩渕氏は指摘している。
(岩本文枝、梅野悠)
[日本経済新聞夕刊2018年8月28日付]
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