韓国映画、民主化や言論統制描く 前政権の圧力越えて

チャン・ジュナン監督「1987、ある闘いの真実」 (C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED
チャン・ジュナン監督「1987、ある闘いの真実」 (C)2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

1980年代の民主化闘争や光州事件を描く韓国映画が相次ぎ公開されている。朴槿恵(パク・クネ)前政権の圧力を乗り越えた映画人たちの力作だ。前政権の言論統制を告発する記録映画も現れた。

1987年に全斗煥(チョン・ドゥファン)軍事政権に反対するデモが広がり、大統領直接選挙制を実現した韓国民主化闘争。チャン・ジュナン監督「1987、ある闘いの真実」(9月8日公開)はその契機となった同年1月のソウル大学生の拷問死事件からの一連の出来事を、生々しく描き出す群像劇だ。

治安本部の対共分室を率い共産主義者撲滅に執念を燃やす脱北者のパク所長。真相を隠蔽しようとする上層部の圧力に抵抗するチェ検事。ひそかに民主化運動に協力する刑務所の看守ハン。そんな官憲側の人物にキム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジンと大物俳優を起用。それぞれを陰影ある人物として描く。

さらに、妨害にあいながら真実を追う新聞記者、責任を押しつけられる末端の刑事、デモで死ぬ学生運動家、彼に思いを寄せる女子学生……。「一人一人の小さな良心が集まって歴史が変わったことを、次代に伝えたかった」とチャン監督。

文化人「黒リスト」

チャンに監督の打診があったのは朴槿恵政権下の2015年冬。「朴政権下でこの映画をきちんと作ることが可能だろうかと悩んだ。当時の文化界は民主化に関する話を扱うと巧妙に不利益を被るという状況だった」。資金はなかなか集まらず、噂になるのを恐れて脚色も秘密裏に作業した。

朴政権は大統領の意に染まない文化人の「ブラックリスト」を作り、支援事業などに介入したことが後に明るみにでる。約1万人のリストにチャンと妻の女優ムン・ソリも入っていた。

制作が動き出す16年秋に崔順実(チェ・スンシル)被告をめぐるスキャンダル(崔ゲート事件)が発覚、朴政権が追い詰められ、状況は好転した。ただ「事件の前に勇気を振り絞り出演を決めた俳優も多かった」とチャン。映画評論家の寺脇研は「韓国映画界の思いがこもっている」と評する。

一方、80年の光州事件を題材にしたチャン・フン監督「タクシー運転手」(公開中)は朴政権下の16年6~10月に撮影された。戒厳軍による市民への暴行を目撃したドイツ人記者と彼を助けた運転手の物語で、主演はやはりブラックリストに載った名優ソン・ガンホ。韓国で1200万人が見る大ヒットとなった。

チャン・ジュナンは「息苦しい時代に制作に踏み切った勇気ある映画人たちが国民的な声援をもらった」と見る。さらに「2つの映画を見れば韓国の現代史の重要な部分が理解できる。人々の心、精神の自由を政治的に抑え込もうとしても、抵抗され、反作用が起こることも」と語った。

政治介入に抵抗

朴政権の言論統制そのものを題材にしたドキュメンタリー映画も出てきた。「共犯者たち」(12月公開)は李明博(イ・ミョンバク)政権と朴政権の約9年にわたるメディアへの介入の実体を明らかにする。政治介入に抵抗するスト中に解雇された公営放送MBCの元プロデューサー、チェ・スンホが監督した。

チェ・スンホ監督「共犯者たち」

李が大統領に就いた08年、新閣僚の検証報道をした公共放送KBSの社長が解任される。政権に批判的な番組が廃止され、調査報道チームは解散、記者たちは非制作部門に配転された。MBCでも米国産輸入牛肉報道を巡りプロデューサーを逮捕。ニュース番組のアンカーを更迭し、社長を辞任に追い込んだ。朴政権で両局の政権擁護の色彩はさらに強まる。政府発表のみを重視し、300人を超す死者・不明者を出したセウォル号沈没事故で「全員救助」の誤報を流し、崔ゲート事件も当初無視した。

チェは解雇後、市民の支援で立ち上げたニュースサイトで調査報道を継続。権力に抵抗する記者らの声を拾い、局内で両政権に迎合してジャーナリズムを骨抜きにした“共犯者”たちを告発する。映画は韓国で昨夏公開。チェは昨年12月、MBC社長に就任した。

朴政権に打撃を与えたセウォル号事故の原因に迫る「その日、その海」もその一つ。キム・ジヨン監督は船舶自動識別装置などのデータを科学的に分析し、生存者の証言と重ね、政府発表の矛盾を明らかにする。

市民の募金を元に3年半かけて作られた。18日に東京で開かれた上映会で製作のキム・オジュンは「時の政権は隠蔽しようとしたが、世の中が変わった時のために少しでも真実の記録を残したかった」と語った。

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2018年8月27日付]

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