介護食、上手に「手抜き」 市販品や冷凍食品で負担減
アレンジ加えて メニュー増やす
食べ物をかむ力や飲み込む力が弱くなった高齢者や在宅患者には、介護食が必要になる。しかし毎日家庭で作るのは、家族にも負担になりがちだ。市販の介護食や冷凍食品などを利用しながら上手に「手抜き」して、栄養のバランスもとれた食事を楽しみたい。
介護食は、かむ力が弱くなった人のためにやわらかく調理したり、食べたものが誤って肺に入ったりしないよう飲み込みやすくしたりする。自宅で療養する患者や高齢者のために作る場合、一緒に暮らす家族の食事とは別にしたり、より多くの手間を掛けたりすることになりやすい。
60歳以上の要介護者がいる家庭を対象にした日清オイリオグループの「第11回在宅介護事情調査」によると、介護食作りが「非常に大変」「ある程度大変」と思っている人は合わせて69%。この調査では回答者の3分の2が30~40歳代と若く、高齢者どうしの老々介護が増える中で、介護食作りの負担はますます高くなるとみられる。
「三度三度の食事を手作りでと考えると、たいてい食事を作る介護者が倒れる。介護食品もどんどん使って調理時間を短縮しないと長続きしない」。在宅患者の栄養指導や食事指導を約20年続ける福岡クリニック在宅部(東京・足立)の管理栄養士、中村育子さんは注意を促す。
単純に市販の介護食をおかずに加えるだけでもよいが、市販品のメニューは多くない。市販品に一手間加えることで簡単にメニューを増やすことも可能だ。例えば介護食の中華五目あんかけに卵を混ぜて温め、軟らかいごはんにかけると天津飯ができる。卵や豆腐を加えるだけで、高齢者に不足しがちなたんぱく質を補うこともできる。
かみ合わせが悪い人向けなど、比較的程度の軽い介護食の場合は、冷凍食品を活用する方法もある。冷凍ピラフを電子レンジで温めた後、水を加えてさらに加熱すれば西洋風のおかゆのリゾットができる。冷凍食品は食品スーパーでいつでも手に入り、長期保存が利くのも利点だ。
在宅介護事情調査によると、介護食作りで大変な点を聞く質問で最も多かった回答は「いつも決まった食材になってしまう」の46.4%。手作りだけなく、介護食や冷凍食品の利用でメニューを増やせば、こうした悩みの解決にも役立つ。介護食や冷凍食品のメーカーも一手間加えた介護食のレシピをパンフレットやサイトで紹介していて、参考にできそうだ。
ただ高齢者の場合、電子レンジに不慣れで、介護食の温めや調理に使いたがらない人も多い。高齢者だけの世帯の場合は一度、別居している家族が一緒に電子レンジで作ると、操作法がわかり使いやすいという。
作り方だけでなく、食べる人とのコミュニケーションも大切だ。飲み込む機能が衰えた高齢者などのためのペースト状のえん下食は、見た目では何の料理なのかわかりにくい。こうした料理は「タラの煮物だよ」など内容を伝えるようにすれば、食べる人の食事への意欲も高まるという。
栄養バランスのとれた食事を取ることが、在宅患者の回復や高齢者の健康維持に大切なことはいうまでもない。しかし介護食作りの負担で介護者が疲弊するようでは、在宅介護そのものが行き詰まる。
介護食作りの負担を減らすことで「介護する人とされる人がコミュニケーションをとったり、介護する人が休息したりする時間ができ、継続的な介護につながる」と中村さんは強調する。作り方だけでなく、食事内容そのものの簡素化も考えたほうがよいかもしれない。
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心配なら栄養士に相談を
「在宅介護事情調査」で介護食作りの大変な点を聞く質問で、2番目に多かった回答が39.1%の「エネルギーや栄養素が足りているのか心配」だった。また「形態が要介護者の状態に合っているのかわからない」という回答も多かった。こうした心配は栄養士などに相談することも大切だ。
医療機関や高齢者施設、薬局などに管理栄養士がいるほか、各都道府県の栄養士会が栄養ケア・ステーションを開設している。管理栄養士の中村育子さんは「気軽に相談してほしい」と話す。
腎臓病や糖尿病など食事管理の必要な患者や、低栄養状態の要介護者などは、管理栄養士に自宅まで来てもらい訪問指導を受けることも可能だ。対象者は医療保険や介護保険が適用されるので、医師などに相談してみるとよい。
(編集委員 小玉祥司)
[日本経済新聞夕刊2018年8月22日付]
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