筋トレ・縄文… 意外な視点で説くビジネス書が人気

「筋トレ」や「縄文」といったビジネスとは縁遠そうな分野から「仕事術」を説く本の刊行が相次いでいる。定番のビジネス書にはない意外な視点からのメッセージが受けているようだ。

筋力トレーニング(筋トレ)をテーマにした異色のビジネス書がベストセラーになっている。Testosterone著「筋トレが最強のソリューションである」(ユーキャン)は2016年に出て、発行部数は14万7千部に上る。米国留学中に筋トレでダイエットに成功し、現在は海外で社長として働く著者のツイッターを書籍化した。

続編で今年5月刊行の「超 筋トレが最強のソリューションである」(文響社、トレーニング科学専門家・久保孝史氏との共著)も6万3千部と快走中だ。

「筋肉は共通言語」

海外のビジネスエリートの多くは運動を習慣にする。同書でも「筋肉は世界共通言語」「上司も取引先もいざとなれば力ずくで葬れると思うと得られる謎の全能感」など、ビジネスと結びつけた叱咤(しった)激励が並ぶ。

著者は、他者と競争しなくても達成感が得られる筋トレの効用として「自信が筋肉として目に見える」と力説する。両書の編集を担当した臼杵秀之氏は「帯で『筋トレ系自己啓発書』とうたい、表紙のイラストもスーツ姿にした」と明かす。こうした戦略が功を奏して書店ではビジネス書の棚に並ぶことも多く、20代後半から30代の男性を中心に売れ行きを伸ばす。

「美術史の父」といわれるヴァザーリの研究者、壺屋めり氏は5月刊行の「ルネサンスの世渡り術」(芸術新聞社)で芸術家が受注獲得に向けて繰り出す手を親しみやすい文章にイラストを交えて紹介した。

「公共事業コンペはニーズが命」「モンスター注文主の対処法」など、目次はまるでビジネス書だ。時代に即した軍事技術者として自らを売り込むレオナルド・ダ・ヴィンチ、「敵の敵」を味方につけるミケランジェロなど、彼らの世渡り術は現代人にも重なる。

「ビジネスは狩り」

エピソードは学術研究資料から見いだしたもので、美術史の専門家には作品の背景として知られている事実も多いが「仕事術として意外にも役立つとの感想を読者から頂いた」と壺屋氏。画集や写真集などを手掛ける同社としては新たな読者層を開拓。編集を担当した山田竜也氏も「幅広い層の興味を喚起する切り口は芸術書も重要だ」と話す。

「縄文意識高い系ビジネスパーソンの華麗なる狩猟採集的仕事術100」と副題でうたうのは、7月刊行の「縄文力で生き残れ」(創元社)だ。「ビジネスとは、狩りである」「大事な商談は風下から近づく」など縄文時代の生活・文化になぞらえて現代にも通じる仕事術や仕事観を示す。メソッドの一つ一つがじかに役立つというより、縄文時代の思考法に触れられる本だ。

著者の望月昭秀氏はデザイン事務所の代表で、縄文を題材にしたフリーペーパーを15年から発行する。「縄文時代が1万年以上も続いたのは、環境と均衡を保てたから。人間同士も、人と森も、『ウィンウィンの関係』を築けていた」と言う。「ウィンウィンの関係」を目指すのは、まさにビジネスにも通じる姿勢だ。

現代人の悩みに縄文的発想で答える「縄文人に相談だ」(国書刊行会)も1月に出した。この種の本としては異例の重版がかかり、発行部数は8千部に達する。

出版科学研究所の久保雅暖研究員は「ジャンルをまたぐビジネス書が増えている。背景には単純な仕事術ならネットで簡単に入手できるようになったことがある」と指摘する。働き方改革が叫ばれる中、ビジネスの常識が変われば、仕事術を語る切り口も変化するのだろう。

(桂星子)

[日本経済新聞夕刊2018年8月21日付]

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