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赤ちゃんの皮膚の赤いあざ 血管腫の飲み薬治療可能に

2018/8/20付 日本経済新聞 朝刊

乳児血管腫は新生児の皮膚の表面や内部に赤いあざができる病気だ。つぶつぶがある外観から「いちご状血管腫」とも呼ばれる。日本人の100人に1人程度が発症するとされる。赤みは自然に薄れることが多いが、部位などによっては発達に悪影響を与え、皮膚のたるみや痕が残ることもある。従来のレーザー照射療法などに加え、最近は乳児期でも飲みやすく効果的な内服薬が登場し、治療の選択肢が増えている。

横浜市に住む30代の主婦は出産後に退院して5日ほどで、長女の目頭と鼻のあたりに内出血のような赤みがあるのに気づいた。

赤みは日に日に大きくなり、不安にかられて生後1カ月検診でかかりつけの病院で相談した。紹介された神奈川県立こども医療センターの馬場直子皮膚科部長を訪ね、乳児血管腫と診断された。この病気で25年以上の治療経験がある専門医の馬場部長のもとには毎日、紹介状とともに保護者が乳児を抱えて訪れる。

乳児血管腫は生後半月程度で現れ、1歳ごろまでに急速に大きくなる。赤みは5歳から7歳までの間で少しずつ自然に消えていくが、多くの場合は痕が残るという。治療をせずに自然に小さくなるのを待つか、治療に踏み切るかどうかは医師が判断する。

乳児の多くが経過観察となるが、目や耳に近いところに病変がある場合は、視力や聴力に影響を与えることがある。鼻や口、首に近い場合は、気道や食道を圧迫して呼吸や食事(哺乳)を妨げたりする。こうした場合は治療を選ぶ。

■増殖抑える効果

皮膚表面より平らに少しだけ盛り上がる「局面型」

これまではレーザーを当てて赤みを改善させるなどの手法が主流だったが、2016年9月に国内初の内服薬が登場した。それが製薬企業、マルホ(大阪市)の「ヘマンジオルシロップ小児用0.375%」だ。乳児血管腫が小さいうちに早めに治療を始めた場合、増殖を抑え、消えるのを早める効果がある。

馬場部長も、医療センターを訪れた主婦の子どもにこの内服薬を処方した。1日2回、哺乳中か哺乳後すぐにシロップを乳児に服用させたところ、半年間でかなりの効果があった。現在は経過観察中という。

ヘマンジオルは1960年代から高血圧や不整脈の治療薬として広く使われてきた「プロプラノロール塩酸塩」を成分とする。フランスの医師が乳児の血管腫にも効果があることに気づき、欧米などで14年から広く使われ始めた。それを踏まえて「17年には日本で診療ガイドラインが改訂され、標準的治療として位置づけられた」(マルホマーケティング部)という。

■副作用に注意

皮膚表面よりドーム状に盛り上がる「腫瘤(しゅりゅう)型」

ただ、低血糖や心拍数の低下などの副作用が起きることがあるので、子どもに飲ませる際は保護者の十分な注意が必要だ。同センターでは最低1週間、乳児の入院を保護者に義務付ける。まずは通常より3分の1に減らした量を与え、段階的に増やす。血圧、脈拍、呼吸数、血糖値を測り、副作用の有無を慎重に確認した上で退院後に処方する。

マルホは自社のウェブサイトで治療を受けられる全国の約150の施設を掲載している。「副作用に備えて皮膚科だけでなく、小児科や循環器科などと連携がとれる体制が望ましい」(マーケティング部)と話す。

乳児は乳児血管腫の大きさがピークに向かう生後5週間以降、5カ月までに内服薬を飲み始めるのが効果的という。服用期間は半年間から1年。馬場部長は「効果については個人差もある。早く目立たなくなるが、跡形もなく消えることはない」と念を押す。

◇  ◇  ◇

■顔や首に多く発生

「皮下型」は皮膚の深いところに腫瘍があり、皮膚の表面は正常

乳児血管腫は未熟な毛細血管が増殖して現れる新生児の良性腫瘍だ。血管内皮細胞の異常で、出生時に体重の軽い子どもに多いとされるが、はっきりした原因は不明。男女比は1対3で女児が多い。

マルホでは独自の調査結果から受診・治療が必要な患者は多くて年間7500人程度と見積もっているが、「正確な患者数を示す疫学データはほとんどない」(同社)ため、100人に1人程度というのも推測だ。

その理由として(1)医師が赤あざを確認しても年齢を重ねると治るという経過観察が主な対応だったため、専門医のいる医療機関の調査だけでは不十分(2)皮膚科や形成外科など診療科が施設によって異なる(3)複数の診療科の医師が情報交換する学会などの場が最近までなかった――などを挙げる。

発生する体の部位では顔、首、頭が6割を占める。皮膚表面だけでなく内臓にできることもある。あざの大きさは様々で体の複数部位にできることがある。乳児血管腫と診断するには問診や触診などのほか、さらに詳しく調べるためには画像や血液の検査などをする。

症状が収まったからと保護者側の判断で途中で治療をやめると、再び悪化してしまう可能性があるので注意が必要だ。

(近藤英次)

[日本経済新聞朝刊2018年8月20日付]

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