映画『検察側の罪人』 理想と現実、エリート葛藤
ハリウッドばりの力強い演出が得意な原田眞人監督は、エリートや権力者の葛藤を描く作品で本領を発揮する。『金融腐蝕列島〔呪縛〕』『関ケ原』などで、新作もその系譜に連なる。
新任検事研修でエリート検事の最上(木村拓哉)が講義している。取り調べの可視化など検察改革の現状を説明しながら、正義とは何かを熱く説く最上に、沖野(二宮和也)は感動する。
5年後、東京地検刑事部に配属された沖野は、最上と共に蒲田の老夫婦殺害事件の担当となり、張り切る。
しかし被疑者の1人に松倉という男を見つけた最上は動揺。蒲田署の参考人聴取に自ら駆けつけ、松倉を別件逮捕させるなど、捜査方針を主導する。沖野は最上の指示に従い、松倉を厳しく取り調べる。松倉は時効となった荒川の少女殺人事件の犯行を自供する。
だが老夫婦殺害は頑強に否定。他の有力な被疑者も浮上し、沖野は最上の強引な捜査方針に疑念を抱く。
実はかつて荒川で殺された少女は、最上が学生時代に住んだ寮の管理人の娘だった。追い詰められた最上はある行動に出る……。
収賄事件で特捜部にマークされている最上の学友の衆院議員が、首相候補の義父と政治信条の違いで対立していること。沖野を補佐する事務官が冤罪(えんざい)を憎み、暴露本を書こうとしていること。最上の祖父が無謀な司令官の下で多くの死者が出たインパール作戦の生存者であること。これら脇筋は雫井脩介の原作小説にないが、どれも権力者の苦悩と暴走を浮き彫りにする。
理想と現実の間で揺れるエリートの葛藤が鮮やかに描かれる。自分が想定した筋書きに固執し、それに反するものを全て切り捨てるのは、権力者が陥りがちなワナ。その普遍性と今日性がドラマの強度となっている。2人の検事だけでなく、被疑者、刑事、弁護士など脇役たちの人物の彫りも深い。2時間3分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2018年8月17日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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