甘さ控えめであん配よく 静岡市興津のあん菓子
まんじゅう、たい焼き、和風パフェ――。欠かせないのがあんだ。旧東海道の景勝地、薩●(つちへんに垂)(さった)峠に近い静岡市興津地区はあんの町。明治時代に同地出身者が製あん機を開発し、近代製あん業発祥の地となった。このため、あんを使った様々なスイーツが町の魅力となっている。
代表格が潮屋の「宮様まんぢう」。甘さを抑えたあんの入った小ぶりの白いまんじゅうだ。明治時代、皇太子だった大正天皇が興津で静養した際に作って献上したことに由来する。酒まんじゅうの香りを抑え、一口サイズに仕上げた。
「あっさりして何個でも食べられると好評だった」と店主の小沢智弘さん(41)。宮様まんぢうの名前を使うことも宮内省(現宮内庁)から許されたという。
あんとお茶のコラボを楽しめるのが「和CAFE 茶楽」だ。製茶業の山梨商店が、店と裏の倉庫をカフェとしてお茶やスイーツを提供する。一番人気の和パフェは抹茶アイスに自家製のあん、フルーツなどが盛りだくさん。この時期は冷たいフレーバーティーなどもあり、一緒にいただくと暑さを忘れる。
あんにも「通常より塩を利かせることでより甘さを引き立てるよう工夫した」と山梨晴正社長(60)はこだわりをみせる。山梨社長は「あんこのまち おきつ」のガイドマップをつくって地域の店を紹介している。
あん菓子の定番、たい焼きもある。地元で「興津のたい焼」だけで通用するのが伏見たいやき店。店主の伏見まゆみさん(55)は「私が嫁にきてから価格はずっと1個100円」という。パリッと焼き上げた皮の口当たりが良い。
週末にはかき氷とアイスも出す。それぞれにミニたい焼きがついて200円とこちらも格安。この日はサイクリストたちが店の前でたい焼きをほおばって糖分補給をしていた。「家族経営のため8月は夏休みをいただきます」とのこと。
JR興津駅の近くにあるうしほ屋菓子店には朝から地元の客が次々とやってくる。目当ては「Nama DoRa」こと生どら焼き。ふっくらと仕上げた皮に包まれたあんと生クリームがお互いを引き立てる。店主の山口実さん(62)は「昔に比べて今はさらに甘さを控えめにしている」と味のアレンジを続ける。
興津のある静岡市清水区は今、国際クルーズ船の寄港が急増している。富士山の眺望、徳川家ゆかりの清見寺など観光資源にも恵まれる。徒歩で名所と和風スイーツ巡りができ、外国人にもお勧めだ。
和菓子には欠かせないあんだが、生あんは水分が多く日持ちがしない。冷蔵技術に乏しい時代、小豆に水を吸わせて炊き、皮をむき、つぶして、といった様々な工程を毎日手作業で行い、効率も悪かった。
そこに革命をもたらしたのが興津出身の北川勇作だ。明治時代、あんを作るための皮剥き機や煮炊釜、豆皮分離器を発明。同郷の内藤幾太郎と共に日本の製あん業の基礎を築き上げた。その功績をたたえるための「製餡(あん)発祥の碑」が興津北部の承元寺町にある八幡神社の入り口に立っている。
(静岡支局長 柴山重久)
[日本経済新聞夕刊2018年8月9日付]
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