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長塚圭史 主宰ユニット劇団化「創作の村を作りたい」

2018/8/7付 日本経済新聞 夕刊

公演に向け演技指導に力が入る(川崎市高津区)

演劇のプロデュースユニットとして人気を博してきた「阿佐ヶ谷スパイダース」が劇団に衣替えし、新作公演に臨む。代表の長塚圭史が「創作の村」と呼ぶ新集団の稽古場を訪ねた。

■9日から公演

7月下旬、川崎市内のスタジオに新生「阿佐ヶ谷スパイダース」のメンバーが集まっていた。9日から東京・吉祥寺の吉祥寺シアターで始まる公演「MAKOTO」(20日まで、その後に大阪、新潟、神奈川、松本でも上演)の稽古だ。

医療事故で妻を失った自称漫画家をめぐる物語だ。主演の中村まことを軸に中山祐一朗と若手俳優たちが演じる場面を、作・演出の長塚とスタッフ、ほかの俳優たちが見つめる。一つの流れが終わると出演者が集まり、長塚を中心に、演技について意見を交わす。

深夜のアパートで中山がヨーデルを歌う。「ここでヨーデルを歌うことを思いついて『やっちゃうよ』っていう感じがもっと出るように」。長塚が細かく指示を出し、中山がうなずく。

中村がアパートの部屋で顔をゆがめて大声を出す。長塚の「最初はうずくまった状態で声を出して(声量を)上げていくのがいい」との指摘に中村が「難しいねえ」と応じる。長塚は若手俳優にも「セリフの意味をもっとはっきりさせて。一つ一つが立ち上がってくるように」と語りかけた。

中村と中山、若手俳優はみな阿佐ヶ谷スパイダースの劇団員だ。中村は1990年に劇団「猫のホテル」の旗揚げに参加し、現在まで同劇団に所属しながら様々な舞台に出演している。中山は2001年から阿佐ヶ谷スパイダースのメンバー。若手俳優たちはオーディションで加入した。

劇団化の狙いを語る長塚

阿佐ヶ谷スパイダースは96年の結成以来、公演ごとに俳優を外部から招く「プロデュースユニット」として活動してきた。メンバーは長塚、中山、伊達暁の3人。長塚が作・演出を手がけ、3人を中心にその都度、多彩な俳優陣が出演する舞台が人気を集めてきた。

20年以上続けた活動形態を変えて昨年5月に「劇団」として再出発し、今回の公演はその第1弾となる。劇団員は俳優14人、スタッフ12人の計26人。中村は「猫のホテル」との掛け持ちで、ケラリーノ・サンドロヴィッチの劇団「ナイロン100℃」所属の村岡希美も同じ形で参加している。

劇作家・演出家が長く率いた劇団を解散してプロデュース公演に活動の足場を移す例はあるが、逆の形は珍しい。長塚はその狙いを「“創作の村”を作りたかった」と話す。

■挙手した人たちで

「同じ人間が集まり、互いの顔が見えるなかで継続して良い作品を創る場にしたい。『出演依頼を受けたから』ではなく『やる』と挙手した人間たちが責任を持ち、役割を超えて交流しながら創作する。そのために参加の間口は広くとる」

稽古場には小さな子供たちの姿もあった。出演するのではなく、スタッフらが自分の子供を連れてきているのだという。子供たちはスタジオの隅につられたハンモックで遊んだり、休憩時間には舞台を走り回ったりしていた。中山によると、阿佐ヶ谷スパイダース以外の舞台も含めて、これまでにない経験だという。

「子供を連れてくるスタッフがいたり、ご飯を炊いて一緒に食べたり。そうしたこともしながら、なるべく多くの劇団員でシェアするようにしたい」と長塚。結成以来のメンバーである伊達は「分業化が進んでいたこれまでよりも、ウェブやパンフレットなど公演全体のことを考える時間が圧倒的に増えた」と語る。

中村は「猫のホテル」での経験から「偶然に集まった連中がケンカしながらでも長く続けてきたような劇団には、独特の面白い世界がある」と話す。長塚は「年1回の公演を重ね、劇団員が集まっていろんな話し合いをしながら創作を継続する『ホーム』になれば」と先を見据える。

(編集委員 上原克也)

[日本経済新聞夕刊2018年8月7日付]

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