映画『祈り』 荘重な映像、美しい映画詩
かつてはロシア語よみで「グルジア」とよばれていたジョージア(英語よみ)は、ゆたかな映画史をもつ国である。なかでも代表的な巨匠として知られるテンギズ・アブラゼ監督(1924~1994)の作品はこれまでに「希望の樹」(76年)と「懺悔(ざんげ)」(84年)が公開されていたが、それらをふくむ3部作の最初の作と監督自身が位置づける「祈り」(67年)がついに公開されることになった。
ジョージア文学を代表する詩人といわれるヴァジャ・プシャヴェラ(1861~1915)の叙事詩2篇(へん)とその他の詩をもとにした映画詩ともいえる美しい作品だ。シネマスコープの画面に、モノクロの荘重かつ鮮烈な映像が展開される。
背景はコーカサスのヘヴスレティ。山々にかこまれ古代からの生活様式が20世紀までのこっていた地方だという。キリスト教徒のヘヴスリ(ジョージア人)とイスラム教徒のキスティ(チェチェン人、イングーシ人)がとなりあって住む。
おもに3つのはなしで構成されている。
遠くからやってきた美しい女(その最初のカットはネガ出しかと錯覚する、ふしぎな光の遠景)を妻にする男。だが、闇=陰のなかから彼女をねらう邪悪な男……。このはなしは3つに分けてえがかれ、その間にプシャヴェラの2篇の叙事詩「アルダ・ケテラウリ」と「客と主人」がはさまる。
前者は、ヘヴスリのアルダが、キスティのムツァルと銃でたたかい、勝つ。しきたりでは敵の右手を切りとるのだが、相手の勇敢さに敬意をいだき、それをしない。そのためアルダは村から追放される。
後者は、狩りで知りあったヘヴスリを家に招いたキスティにおこる悲劇。
全篇、セリフとして発されることばはすくなく、原作の詩のことばが画面にかぶさる。口に甘くはないが食いつきがいのある映画。1時間18分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2018年8月3日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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