緑なのになぜか青・変わる待ち時間… 信号機の今昔
交差点の交通整理に欠かせない信号機。車両用は全国に126万基以上あって気が付きにくいが、いろいろ進化している。1919年に日本初の信号標板が設置されてから99年。その歴史を探ってみた。
「最近ちょっと小さくなった」。国内大手、日本信号営業本部の岩崎茂久課長は笑顔で話す。1994年に登場した発光ダイオード(LED)式信号機。昨年生まれた新鋭機は、ライトの直径が25センチと、これまでより5センチ小さくなっている。LEDの性能向上で小型化しても問題ないと、警察庁が49年ぶりに標準仕様を変更したのだ。
狙いはコスト削減。日本信号によると「製作費が約8%安く、消費電力も電球型に比べて6分の1以下」という。
ちなみに赤・青・黄は同じ明るさではなく、黄色が他より1.5倍明るい。岩崎課長は「LED光は単一波長で、波長幅が広い電球式のようにダイナミックに発光されないことがある。黄色が判別しづらいと色覚異常の方の声があり、明るくした」と解説する。
信号機大国ニッポン。1平方キロメートル当たりの設置密度は英国の5倍、米国の16倍で、世界トップクラスだ。名古屋大学大学院環境学研究科の中村英樹教授は「海外で見られるラウンドアバウト(環状交差点)のような信号機に頼らない交差点を、日本はほとんど採用してこなかった。道路ネットワークの観点からいっても、格子状に道路を張り巡らせることが多く、その分、交差点と信号機が増えている」と話す。
信号機の歴史は大正時代まで遡る。「ススメ」「トマレ」と書いた文字板を手動で切り替える「信号標板」が、19年に東京・上野に初めて登場した。電気式がお目見えしたのは交通量が増えた昭和に入ってからで、30年に東京・日比谷に米国製が設置された。当時は色の意味が理解されず、青に「ススメ」など文字を書き込んでいたという。
それにしても信号の色は緑なのに、なぜ青と呼ぶのか。当初は法令上も緑と記載されていたが、日本人は昔から「青葉」など、緑も含めて広く青と呼んできた。当時の新聞が青信号と書いたこともあり、広まったそうだ。
歩行者用の待ち時間表示信号機は96年ごろから広まった。ブロックが一つずつ減っていくタイプが多いが、秒数を数字で表すものもある。ブロックは8個と10個タイプの2種類があるそうだ。
実は、大きな交差点の青信号の長さは、時間帯や交通量で変わる。「ブロックがすべて均一の時間で消えているわけではなく、最後のブロックで調整している。気付きましたか?」と岩崎課長は笑う。数字の場合、日本では調整のため最後の数秒を表示しない場合が多いが「海外では3、2、1ときてまた2、3と戻ることもある」という。
押しボタン式も近年進化し、タッチ式が登場。古くなるとボタンが押しにくい、との声に応えて開発された。「おまちください」の表示はかつて赤だったが、色覚異常の人にも見やすいように2009年から白に変わっている。
東京都内では全信号機のうち約99%、全国でも約55%と普及が進むLED信号機。近年、思わぬ弱点としてクローズアップされているのが雪だ。発熱量が電球より少なく、付着した雪が溶けにくい。ライト上に透明カバーをかぶせたり、灯器部分を傾けて雪が付着しにくくしたりするなど各社は工夫を凝らす。だが完璧とはいえず、雪対策は試行錯誤が続いている。
未来の信号機はどうなるのだろうか。「車の自動運転の時代が来ても、信号機はなくならないはず。歩行者や自転車も道路を渡るから」と岩崎課長。その上で「将来、AI(人工知能)を使って最適な青信号の長さを判断するシステムが出てくるかも」と予測する。「もし車が空を飛ぶようになったら? 空に向けて電波を発信するような新型信号機が生まれるでしょう」と笑って答えてくれた。
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ランプが1つの信号機も
信号機は赤・黄・青のランプが3つ並んでいると思っている人は多いだろう。だが、ランプが1つしかない信号機もある。黄色の点滅は「注意して進め」、赤は「一時停止」の意味だが、教習所で習ったことを忘れてしまう人も多く、このタイプの信号機は希少になっている。レンズが赤だけ30センチと大きく、青と黄色は25センチのものもあり、注意して探してみると面白い。
歩行者用では14年に神奈川県が「さがみロボット産業特区」(相模原市、藤沢市など10市2町)に鉄腕アトムを採用した信号機を設置し、地域の人々の人気を呼んでいる。
(鉄村和之)
[NIKKEIプラス1 2018年8月4日付]
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