日中アニメ、文化学び合う 若手3監督合作が8月公開
日本と中国の有力アニメーション制作会社の若手が手を組み、映画を合作した。8月4日、それぞれの国で劇場公開する。アニメ制作で急接近する日中の新たな動きを追った。
光が差し込む美しい景色の中で、温かく切ない物語が進行する。アニメ映画「詩季織々(しきおりおり)」を鑑賞すると「何となく見覚えが」と感じるかもしれない。
それもそのはず、一昨年大ヒットした新海誠監督のアニメ映画「君の名は。」を制作したコミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)のスタッフが作画や背景美術などを手がけているからだ。ただし今回の舞台は中国、登場人物も中国の人々だ。
10年前に衝撃
総監督をつとめたのは中国のリ・ハオリン(李豪凌)氏。「ハオライナーズ」というブランド名で知られる上海のアニメ制作会社の経営者にして、アニメ映画監督だ。そのリ監督が約10年前、新海監督の短編「秒速5センチメートル」(2007年)を見て衝撃を受けたのが始まりだった。新海監督作品を手がけてきたCWFに合作のラブコールを送り続け、今回の企画が実現した。
「『秒速5センチメートル』はいわゆるオタク向けでも商業主義の作品でもなく、ロマンチックで文学的。日本のアニメの中でも独自色があった。CWFのスタッフならではの美しい映像で、中国の物語を表現したいと思った」とリ監督は合作の意図を語る。
「詩季織々」は3つの短編で構成し、リ監督のほか、実写映画を手がけてきた中国のイシャオシン(易小星)監督と、新海監督作品をスタッフとして支えてきた竹内良貴監督が参加した。3人の監督は、いずれも1984~85年に生まれた30代前半の同世代だ。
イ監督の「陽だまりの朝食」は、湖南省の定番の麺料理ビーフンを介して祖母と過ごした懐かしい日々を描き、竹内監督の「小さなファッションショー」は広州を舞台にファッションモデルの姉とその妹による愛情の物語だ。リ監督の「上海恋」は「石庫門(せきこもん)」と呼ばれる上海の伝統的な住宅が近代化によって次々に取り壊される中、そこで過ごした日々と淡い初恋の思い出を時空を往来しながら描いた。
合作するうえで腐心したのは、「日本のスタッフに中国の文化をいかにつかんでもらうか」(リ監督)。中国人の物語を実際にアニメの絵として描くのは日本のスタッフだからだ。舞台となった中国各地を訪ねてもらい、現地の雰囲気に浸ってもらった。
竹内監督はスタッフとして他の2作品の制作にも携わったが、「登場人物のしぐさや性格が日本っぽい」と中国のスタッフに指摘されたことがあったという。「中国の人たちは日本人のようにお辞儀をせず、いきなり相手と話をする、と言われ、お辞儀の部分をカットした」と竹内監督。「でも合作だったからこそ気づけたこと。勉強になった」
プロ意識に驚き
一方のリ監督は日本のスタッフのプロ意識にうなった。日本でビーフンといえばいためた麺の印象が強いが、「陽だまりの朝食」に出てくるビーフンはスープに浸った麺料理だ。リ監督は「今回のロケハンで初めて訪中した日本のスタッフも多いのに、具材、スープの色、麺の幅や厚さも繊細に変えて3種類のビーフンを描き分けていた。写実能力が高く、しかもそれを美しく描く」と指摘する。
日本のアニメは80年ごろから中国で広く親しまれるようになった。85年生まれのリ監督は中国のテレビで放送された「星闘士星矢」や「スラムダンク」「ドラゴンボール」といった日本のアニメを見て育った。
「中国のアニメ市場は投資が相次ぎ、ものすごい勢いで成長している。だが、業界の底力はまだ足りない。作品の質を上げるためにも日本と合作した方がいい」とリ監督は言い切る。今回の合作映画は、アニメを世界に誇る大衆文化としてきた日本と、市場が急成長する中国との新たな関係の現れでもあるようだ。
(関原のり子)
[日本経済新聞夕刊2018年7月30日付]
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