映画『ウインド・リバー』 辺境で生きる者の現実
米国中西部、ワイオミング州の雪に埋もれたネイティブ・アメリカンの保留地ウインド・リバーで血を吐いた娘の死体が発見された。裸足(はだし)で雪の中を走り続けたことによる肺の破裂。彼女に何が起きたのか?
メキシコ国境地帯の麻薬戦争が題材の『ボーダーライン』(2015年)、テキサスの田舎町の貧困が背後にある『最後の追跡』(16年)。この脚本を書き、3作目の今回は脚本、初監督のテイラー・シェリダンは、法や正義が通用しない辺境の地で生きる人々の心の痛みと闇に光を当てている。
事件発生の知らせでやって来たFBIの新米捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)は、被害者がレイプされてはいても、死因が肺の破裂では殺人事件が成立しないことを知った。そのため応援が呼べず、野生生物局の白人ハンターで第一発見者のコリー(ジェレミー・レナー)に協力を頼んだことから何もない荒地の保留地での生活を垣間見る。被害者は3年前、失踪後に死体で発見されたコリーの娘の親友だった。
仕事はなく、若者は麻薬に走り、犯罪に手を染める。全米各地の保留地では若い女性の失踪事件が起きるが統計すらとられていない、という実情を踏まえて本作は生まれた。
娘は削岩所の警備員とデートしていた。若い保安官4人を引き連れ、警備員宿舎に乗り込むジェーンと彼らを迎える警備員たち。全員が一斉に銃を向け合う衝撃の光景が出現する。その輪に入らず、宿舎の裏からスノーモービルの車輪の跡が山に向かっているのを見つけたコリーは後を追った。決して許さない。
コリーは娘の父に言った。「二つの知らせがある。悪い知らせは、君が決して元に戻れないこと。善い知らせは、事実を受け入れて苦しめば娘がくれた愛も喜びも覚えていられる」。これが辺境で生きる者の現実だ。1時間47分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年7月27日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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