仕事や家事が滞りがちに… ストレス蓄積の兆しかも
女性、多く感じがち/抵抗期の「元気」続かず
職場や家庭で感じる、様々なストレス。よくあることだと放置すると、精神疾患や急病の引き金になることもある。ストレスとの適切な向き合い方を知って、早めに対処し、気持ちを楽にして過ごそう。
過度なストレスを我慢するうちに、倦怠(けんたい)感や落ち込みといった不調が現れる。ストレス蓄積の兆しはイライラや不安感などメンタル面にも出るが、精神保健福祉士で産業カウンセラーの大美賀直子氏は「身体と行動に表れる、具体的な異変に注目して」と話す。
例えば不眠や食欲減退といった、不快なストレス反応。単なる疲れと侮って放置すると、病気を招く。行動面では「仕事や家事を普段どおりにこなせなくなっていたら危険信号」と大美賀氏は指摘する。
女性は特に、ストレスを抱えることが多い。結婚や出産などライフステージの変化や、社会的性差によるストレスを男性よりも受けやすいためだ。月経や更年期など、ホルモンが原因の場合もある。
不快なストレスの要因が重なると、一時的に心身の抵抗力が下がり、活動が滞りがちになる。体がストレスに対抗するため、いったん元気になるものの、無理は続かず、疲れ果ててうつ病などを招く。専門家は「まずい状態に近づいていることに早めに気付いて、歯止めをかけてほしい」と口をそろえる。
人は強いストレスを受けることで現実を見るフィルター(認知)がゆがみ、マイナス思考や自分を追い込む考え方に陥りがちだ。うつ病などの治療に使われる「認知行動療法」の第一人者で精神科医の大野裕氏は「悩みの原因ばかり追究するのではなく、どうすれば次に進めるのかをまず考えて」と助言する。
認知行動療法では、自分の行動や考え方を見つめ直す。物事の受け取り方のゆがみを修正して、気持ちを楽にしたり、行動を変えたりする治療法だ。大野氏によると、心の健康には、認知(コグニション)とコントロール感覚、コミュニケーションを表す英単語の頭文字を取った「3つのC」が重要だという。
健全な認知を支えるのが、睡眠と気分転換だ。睡眠は1日6時間が目安。眠れなくても、横になるだけで一定の効果が期待できる。気分転換は好みの方法を選ぼう。「映画や読書、ストレッチのほか、家でダラダラするだけでもよい」(大美賀氏)。ただし、飲酒は要注意。依存症につながるおそれがある。
仕事や家事などを自分の裁量で進めているという実感(コントロール感覚)を持つことも大切だ。視野が広がって考え方や行動が柔軟になり、心の状態が変わる。
身近な人に悩みを話すだけでも、ストレスはかなり軽くなる。大美賀氏は「家族や職場の同僚がストレスの元になっていることがある。行き付けの美容師など聞き上手な接客のプロに話すのも一案」と助言する。
一つ一つは難しくないが、実行に移さない人は多い。「体力がある人や責任感が強い人ほど『まだ大丈夫』と自分を過信しがち。たまったストレスを放置すると、どんどん心身がむしばまれる」と大美賀氏は注意を促す。
自力で解決するのが難しいと感じたら、職場のカウンセリング室や医療機関で相談しよう。大切なのが、専門家との相性。最初に相談した医師やカウンセラーとの相性が良くないときは「簡単に変えない方がよいが、他の人に相談してもいい」(大野氏)。
生きている限り、ストレスはつきまとう。適度なストレスは集中力を増す効果もあり、「ストレスそのものは決して悪者ではない」(大野氏)。自分一人で抱え込まずに、日常生活で工夫しながらストレスの状態を適切に保とう。
(ライター 大谷新)
[NIKKEIプラス1 2018年7月28日付]
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