片づけの極意 モノの定位置つくる
生活研究家 阿部絢子
片づけが苦手という人は多い。本当に苦手なのだろうか? もしかしたら、忙しい、暇になったらなどと言って時間を工面せず、「いつでも片づけなんてできるさ」と、先延ばしにしているだけでないのか。あるいは、仕事や家族に関する悩み、ストレスを抱え込み、片づけどころではないと、後回しにしているのかもしれない。
テーブルの上にあるのは、チラシや広告、郵便物、ティッシュやメモ用紙、ボールペン、コーヒーカップや食べ終わったカップ麺に薬瓶――。あれこれのモノが乱雑に置かれた家にお邪魔したことがある。私は驚きを通り越し、しばし、あぜんとした。
そこで目にしたものは、自宅に帰った時に先延ばし、後回しにした「ツケ」だ。これでは、くたびれて帰った気持ちが、より一層くたびれ果てるのではないか。明日への活力を復活させるべき場所がこのありさまでは、日々のエネルギーも失われていく。
慌ててテーブルの上を拭くにしても、まずは上のモノを片づけてからでなければ拭くこともできない。また、拭くまでの時間もかかる。ある程度は片づいていないと、時短などはほど遠い。
この散らかった家の主いわく「もう快適などは手放している」。とはいえ、ちょっと手を動かしさえすれば、テーブルの上を片づけられると、私は手を出した。
まずは、テーブル上のモノを必要か不要かで分ける。必要なモノは、メモ用紙とボールペン、ティッシュペーパー、コーヒーカップ、薬瓶、郵便物など。さらに、その中でも要不要を見極める。そして必要なモノを定位置に戻していけば、テーブルの上は片づく。
それでも、いつも片づかない要因があるとしたら、それはモノの定位置が存在していないことだ。無料でもらうティッシュペーパーなどいい例だ。取り置きする郵便物にも定位置は必要だ。
モノの定位置さえあれば、片づけなどすぐにできる。片づけは、使用するモノの定位置をつくることなのだ。定位置がないと、モノはあちこちに取りあえずの形で置かれ続ける。テーブル、ソファ、机、冷蔵庫などの上、さらには床や廊下、出窓にまで広がることになる。使用の度に、探す時間、出し入れの時間がかかるばかりだ。
片づけは難しいと思われがちだが、大きな場所を片づけようとするからだ。無理せずに、例えばキッチンの引き出し一つから始めて、その中で使用するモノの定位置をつくっていけばいいだけだ。
モノの定位置があれば、使用した後、戻す作業をすればすむので、スピーディーに片づけが進む。片づけをすると気分爽快になり、快適空間が生まれる。ストレスや落ち込んだ気分も、吹き飛んでいきそうだ。
年を取ってくると、大きなスペースを使ってモノの定位置をつくるのは、体力、気力、集中力を必要とする。普段から、大片づけではなく、コツコツと小さなスペースから小片づけをしていきたい。
薬剤師の資格を持ち、洗剤メーカー勤務後に消費生活アドバイザーに。家事全般や食品の安全性の専門家として活躍。「モノ・人・お金 自分整理のすすめ」(中経出版)「ひとり暮らしのシンプル家事」(海竜社)など著書多数。
[日本経済新聞夕刊2018年7月24日付]
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