映画『未来のミライ』 幼子が時超え知る家族の絆
「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」など家族や異世界をモチーフに独特のアニメーション世界を構築してきた細田守監督の新作アニメである。今回は4歳児の男の子を主人公に、未(いま)だ世界を知らない幼子が自分の家族の歴史を知って成長していく姿を温かく描いている。
港のある都会。4歳になる男の子のくんちゃん(声は上白石萌歌)は、小さな庭のある家で建築家のお父さん(星野源)とお母さん(麻生久美子)、愛犬と一緒に暮らしている。冬のある日、くんちゃんに可愛(かわい)い妹がやってくる。
ところが、くんちゃんは両親が妹ばかりにかまけて面白くない。それまで両親の愛情を独り占めにしてきた甘えん坊のくんちゃんは妹に嫉妬し、両親の言うことをきかなくなり、反抗的な態度をとるようになる。
そんなくんちゃんは庭で不思議な少女と出会う。ミライと名のる少女は、未来からきたくんちゃんの妹。彼女に導かれて時を超えた冒険の旅に出た幼い兄は、愛犬の面影を宿す謎の男や若い頃の母親や父親に出会うことになる。
中でも祖父との出会いは大きい。戦争中に空襲で足を負傷した祖父は、くんちゃんを馬やオートバイに乗せ、恐がるくんちゃんに前方の景色を見ろと告げる。その思いが自転車に巧(うま)く乗れないくんちゃんの現在の姿を後押しする。
未来からきた妹のミライに導かれて知る家族の絆の歴史。くんちゃんは祖父が祖母と結ばれなかったら、今の自分がいないことを悟り、小さな妹を両親と共に優しく見守るようになる。
子供が家族の過去を知ることで大人になる成長譚(たん)はよくあるが、細田監督はシュールな異世界の体験という得意の要素に巧みに結びつけて物語を展開。映像もリアルな空気感を漂わせた繊細な絵柄で絶妙なアニメ世界に仕立て上げている。1時間38分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年7月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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