出張サービスもフレンチもあり 回転ずし進化の60年
高根の花だった寿司(すし)を身近にした回転寿司。大阪で産声を上げてから今年で60年がたつ。その間、さまざまな変化を遂げ、今や外食の定番になった。進化が止まらない回転寿司。その変遷を追った。
「この穴子、おいしい」。6月半ば、東京・新宿駅近くのオフィスで歓声が上がった。ファイナンシャルプランナー事務所が新宿支店の開設記念パーティーを開いた時のこと。この会社が利用したのが活美登利(東京・品川)の出張回転寿司だ。
活美登利はネタの良さや大きさで知られる人気の回転寿司チェーン。4年前から始めた出張サービスは、家や会社を職人が訪れ、その場で回転レーンを組み立ててネタを流す。まるで店で食べているような気分だ。パーティーを企画した久保田淳子さんは「人気店のネタが並ばずに食べられる。何よりも座が盛り上がる」と目を細める。
回転寿司が生まれたのは1958年。大阪府東大阪市の「廻る 元禄寿司」が元祖だ。生みの親の故・白石義明さんの長男で、元禄産業社長の博志さん(68)は「おやじは研究熱心でメモ魔だった」と振り返る。寿司店を営む義明さんが、ビール工場で瓶がコンベヤーで流れる様子を見て着想を得た話は有名。浪速商人の面白好きが生んだ発明ともいえる。
「コンベア旋回式食事台」の特許を取りフランチャイズ化したが、78年に特許が切れると新規参入が相次ぎ、大手がしのぎを削る群雄割拠の時代に突入。各社の店舗は大型化し、ファミレス化が進んでいった。2001年にはタッチパネルで注文する方式が登場。04年には注文した客のもとへ、寿司を直接運ぶ専用レーンもお目見えした。
回らない回転寿司も話題だ。代表が元気寿司が展開する「魚べい」。回転レーンをやめ、注文の品をすべて直接客に届ける専用レーンにした。新幹線などの形をしたトレーに最大4皿まで載せて届ける。小さな子供が喜ぶという。この4年間で100店以上が回らない店になった。
なぜ、原点の「回転」をやめたのか。総務部長の篠原一博さんの答えは明快だ。「客の8割はタッチパネルで注文する。回転レーンを外しても影響は少ないと判断した。提供速度が上がり、客単価や入れ替えの回転率も高まり、逆に食品ロスは減った」。事実、非回転の店は回転する店より売り上げが約2割増えた。とはいえ回転しない回転寿司とは何とも妙ではある。
各社はサイドメニューにも力を入れる。カレーや麺類は当たり前。今や牛丼やうな丼まである。中でもユニークなのが、愛媛県宇和島市が本店の「回転寿司すしえもん」の鯛(たい)めしだ。
鯛めしは宇和島の郷土料理。「本場の味を都会の人にもぜひ味わってほしい」と、イーアス高尾店(東京都八王子市)とイオン神戸南店(神戸市)で提供する。
フレンチまで登場した。「あじわい回転寿司 禅」(神奈川県小田原市)は回転寿司と洋食が融合する異色の店。サイドメニューで出すビストロ料理がユニークだ。
寿司職人で、フレンチを学んだ西尾明オーナー(51)が腕を振るう料理は、本格フレンチ店にも負けない味。店では600銘柄のワインと60種類の洋食を用意。特に「イベリコ豚ほほ肉ビール煮」は熟成された肉のうまみが凝縮され、ワインがほしくなる逸品だ。
多様化する回転寿司。どの店を選ぶか迷う人も多いだろう。回転寿司評論家の米川伸生さんは「店に入ったら、まずは流れるネタの鮮度をチェックすること。最初に頼むネタはアジがいい。鮮度によって如実に味が違うからだ。それがおいしい店にハズレはない」とアドバイスする。
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回る向き、左右が半々に
レーンも変化している。レーンメーカー最大手の北日本カコー(石川県白山市)によると、以前は右回り(時計回り)が多かったという。職人も客も右利きが多いからだ。
職人は内側に立つため、右回りだと皿が左から流れてくる。右利きの職人にとっては左手で流れる皿を押さえて右手で置けるためやりやすい。右利きの客も右から流れてくる方が早く取れる。タッチパネル式だと左右は関係ないので今では左右半々という。
速さも変わってきた。北日本カコーによると、レーンが小判のように回る小型店舗が主流だった初期は、客が選びやすいように分速4.5メートルと遅かった。テーブル席が並ぶ大型店舗が増えた今は、素早く届けるため分速7メートルと速くなっている。せわしなくなった日本を象徴する話だ。
(高橋敬治)
[NIKKEIプラス1 2018年7月21日付]
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