顧客の言葉を疑え 売上高が急増、最年少所長の提案力
ヤマハ発動機FA西日本営業所長 下岡治さん
ヤマハ発動機の産業用機械事業は5年で売上高を倍増させた。好調の一翼を担うのが、工場の自動化(FA)だ。下岡治さん(37)は16年に歴代最年少で約1千社の顧客との窓口となるFA西日本営業所長に就いた。営業所の売上高は17年に、就任前の1.7倍に増えた。
ヤマハ発は製品を縦・横や垂直に動かす搬送装置のパイオニアの1社だ。80年代にバイク工場の自動化で培った技術の外販から始まり、電子部品の実装機では1割強のシェアを有する隠れた名門だ。
FAは工場の主役だが、製造ラインの搬送部を支える「動く軸」部品を扱う下岡さんの仕事はまさに「黒子」だ。「数えるのも嫌になる」(下岡さん)程に細かく分かれた部品を、ライン一式を納める機械商社へ納入する。
取引先は常に複数の案件を並行して動かしている。納入を終えた時には、担当者の目線は常に別の案件へ向く。下岡さんは「顧客からお礼を言われることもないですよ」と淡々と話す。仕事が評価されれば、黙っていても次の仕事が舞い込む。「その循環を維持し続けることが、うまくいっている証拠」なのだ。
下岡さんが気を配るのが、顧客からの問い合わせだ。規定サイズがある部品を扱い、順調に進む案件では具体的な発注が来て終わる。小さな問い合わせでもそれは「顧客に困り事があるサイン」だ。
根底には「顧客の言葉を疑え」という経験則がある。常に仕事を抱え忙しい中からの単純な問い合わせには「裏には顧客の本当にやりたいことが隠れている」のだ。
例えば、生産ラインの搬送機器で「横移動を1秒でできる製品はないか」という問い合わせが来たとする。対応部品の有無だけの応対では、製品がなければ手詰まりになる。質問の裏にある工程全体で求める時間や精度を拾い上げ、提案につなげるのだ。
下岡さんは「顧客のしていることに興味を持つ」事が大切だと説く。単純な製品の有無だけでなく、周辺機器や前後の流れを細かく尋ねる。指定された箇所だけでは対応できなくても、前後の工程も含めて条件を満たす「解」を考える。うまくはまれば「自然と任せられる仕事の範囲が広がる」提案ができる。