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詩人・金時鐘、作品集刊行 「在日」を生きた証し刻む

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「在日」の詩人、金時鐘(キムシジョン)氏(89)の作品集「金時鐘コレクション」(全12巻、藤原書店)の刊行が進んでいる。収録される詩や評論は時代や社会を活写。表現言語の日本語との格闘の記録でもある。

 時鐘氏は1929年に日本統治下の朝鮮・釜山で生まれ、日本語を国語とする教育を受けて育った。数え年17歳の45年に、母の郷里の済州島で「解放の日」(日本の敗戦)を迎えた。既刊の「金時鐘コレクション8」は、この時期についてのエッセーなどを収める。

敗戦をラジオ放送で知った時は、立ったまま地の底へめり込んでいくような気がした。それほどの皇国少年だったので、祖国が突如よみがえり、いや応なく(総称語としての)朝鮮人に立ち返らされると、自分は何者なんだろうという思いに取りつかれた。

それは、言葉の問題に深くかかわる。言葉は人間の意識そのものですが、私は自国の朝鮮語ではなく、宗主国の言葉である日本語で意識を蓄えてしまった。その日本語は8月15日正午を境に、白日にさらしたフィルムのように用をなさない真っ黒の言葉になった。

朝鮮で生まれ育っていながら、ハングルではアイウエオのア一つ書けない私でした。自分の国の言葉を引き戻しにかかるのは、骨が折れることだった。

 48年、朝鮮半島の南北分断の固定化に反対し、済州島で民衆が蜂起した。「四・三事件」だ。鎮圧は苛烈を極め、蜂起に加わった時鐘氏は49年に命からがら大阪に逃れた。翌50年、朝鮮戦争が勃発する。

日本で表現者として生きようとすると、切れたはずの日本語を使わねばならなくなった。それには、日本語と向き合う必要があった。歴史的には8月15日をもって私は日本人から脱したが、植民地下で身についた情感豊かで精緻・流麗な日本語から離れないと、「解放」されないと思った。

私の日本語は「ごつごつしい」と言われます。詩は現実認識が問われる言語表現と考えている。現実を柔らかく包むのではなく、切り取るように見ていく。だから、そうならざるを得ない。私淑する詩人の小野十三郎さんも著書で、現実認識について同様のことを書いてらっしゃる。

 59年末に、北朝鮮への帰国第一船が新潟港から出航した。これを契機に2カ月ほどで、長編詩集「新潟」を書き上げた。だが、発表の場を得られず、刊行までに約11年要した。

「新潟」は本国で越えられなかった北緯38度線(朝鮮半島を南北に分断する軍事境界線)を、日本で越えるという発想がモチーフになっています。私の本籍地は38度線北側の元山。45年10月、父の考えで帰ろうとしたが、近くの東豆川を渡る段になって警察隊に捕まり果たせなかった。

日本に来た後も、北へ帰ることは希望の一つだった。だが、私は在日本朝鮮人総連合会から「思想悪のサンプル」とされ、帰国の対象にならなかった。日本語で詩を書いていることも、「民族虚無主義」などと厳しく糾弾され、表現活動を長く封じられた。「新潟」は朝鮮総連の規制をかなぐり捨てて刊行した。

 北緯38度線を越える希望を断たれ、日本で暮らす現実を突き詰めて問われることになった。七転八倒の末、60年初頭に「在日を生きる」という命題をつかんだ。

初め「在日の実存を生きる」と言っていたのを、長ったらしいので縮めました。「在日の実存」で言い表したのは、親子や兄弟で北支持・南支持の対立があっても、「在日」の私たちは一つところを同じく生きているということです。

「在日」は南北を同視野に収められる立地に生き、居ながらにして境界を越えうる存在です。南北にもっと近接し、交流するように促せる。それを、私は「在日を生きる」と言ってきた。

 今春は東日本大震災後に編んだ詩を収めた「背中の地図 金時鐘詩集」(河出書房新社)も刊行した。持論は「詩は書かれなくても存在する」。「生き方自体が丸ごと詩」という人たちと出会うために、詩人は行動せねばならないと説く。

よほど恵まれた人でない限り、喉元(のどもと)まで突き上がる思いを抱えながら、飯を食うために好きでもない仕事をやっているんです。その思いを言葉にできるのが詩人。美しい世の中があるとすれば、書かれない詩を生きている人が満遍なく点在している国です。

(編集委員 小橋弘之)

[日本経済新聞夕刊2018年7月17日付]

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