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あなたも実はドライアイ? オフィスの3人に1人発症

2018/7/16付 日本経済新聞 朝刊

2016年にドライアイの診断基準が改定されて以降、これまで診断が下りなかった人も、新たに治療対象となる事例が増えている(写真はイメージ=PIXTA)

スマートフォン(スマホ)やパソコンを使う時間が増え、目が乾くなど不快な症状から「ドライアイかもしれない」と感じたことはないだろうか。2016年にドライアイの診断基準が改定されて以降、これまで診断が下りなかった人も、新たに治療対象となる事例が増えていることが順天堂大学の調べで分かった。ドライアイの疑いがある人も眼科を訪れれば、日ごろの目のストレスから解放されるかもしれない。

「目が疲れるなあ」。17年春、40代男性は夜になるとこうした症状を感じるようになり、順天堂医院を訪れた。検査をすると角膜などに傷はないが、瞳の表面を覆う涙の膜は、まばたきをして1秒ほどでゆがみ、破れてしまう。最新の診断基準からドライアイと診断された。処方された目薬で症状は和らいだという。

ドライアイは涙の質や分泌量が低下することで、目の表面の健康が保てなくなる病気だ。加齢やパソコンの長時間利用、コンタクトレンズなど原因は幾つかある。症状は目の疲れや乾燥のほかにも、目やにの増加や痛みなどが出ることもある。オフィスで働く3人に1人がドライアイに悩まされているといわれる。

これまでの診断基準によって治療するには(1)目が乾くなどの自覚症状(2)涙が少ないなどの異常(3)涙の内側にある角膜上皮細胞がめくれるなどの障害――のすべてを満たす必要があった。だが、この基準だと、傷がなくてもドライアイの症状を訴える人は眼科で治療を受けられなかった。

研究が進み病気への理解が深まり、国内の医師や研究者で構成するドライアイ研究会は16年に診断基準を改定。自覚症状に加え、検査で瞳の表面を覆う涙の膜が5秒以内に乱れることが確認できればよくなった。

涙の膜は外側から油層、液層、ムチンという要素からなる。旧基準でドライアイと診断されるには、角膜上皮細胞が露出したような状態になる必要があった。新基準では、傷などの炎症や涙の量は基準に含まない。慶応義塾大学の坪田一男教授は「傷がないのにつらい人が多い。傷より涙の膜の安定が重要という認識が広まった」と話す。

順天堂大の猪俣武範助教らが患者のカルテを遡ると、治療対象になる患者が新基準で3割増えた。15年11月から17年4月までに順天堂医院を訪れた患者250人について、治療対象になる「ドライアイ確定」に当てはまるかどうかを新旧の基準それぞれで判断。新基準で167人となり旧基準の97人から増えた。

猪俣助教は「1カ所での研究なので一般化しにくいが、これまでに『ドライアイ疑い』と診断された人は『確定』に多く割り振られると予想される」と話す。

ドライアイ研究会の調査によると、症状を感じながらドライアイと診断されていない「隠れドライアイ」は約1000人中116人いた。そのうち9割以上が眼科で治療を受けていないと回答。仕事でパソコンなどを1日8時間以上使う人は、隠れドライアイ全体の6割以上を占めた。

市販の点眼薬には治療に有効な成分が必ずしも含まれていない。これに対し病院で受けられる治療は、点眼薬と涙点プラグという2つの手法が現在の主流だ。

病院の点眼薬は複数種類ある。これまではヒアルロン酸で液層を保湿する点眼薬がよく使われていたが、それだけでは「(新基準で重視する)涙の膜の安定性は改善しないこともあった」(坪田教授)。最近は点眼薬の種類が増え、原因に応じて使い分けられるようになった。

涙点プラグはシリコンなどで涙の出口をふさいで涙を目にとどめて安定性を維持するが、負担を感じる人もおりプラグの代わりとなる点眼薬が出てきている。油層を温めて脂質を分泌する脂腺の働きを改善し乾きにくくする器具もある。

涙の異常はすぐには失明につながらないが、ドライアイを放置すると、肩こりや頭痛、うつなどを引き起こすきっかけになる。目を温めるなど普段のセルフケアも重要になる。予防法の研究もこれから活発化しそうだ。

◇  ◇  ◇

■診断基準、国内外で差 欧米は厳しめ

日本でドライアイの定義や診断基準が定められたのは1995年。パソコンの普及が急速に進んだ時期に重なる。その後、現代病としてドライアイ患者が増えたことで研究が進み、06年に基準を改定。16年はそれに続く2度目の改定となった。

ドライアイ診断基準は国内外で異なる点が少なくない。欧米は角膜に傷などの炎症が起こっているかどうかや、涙の浸透圧が高いかどうかを重視する。涙の膜が破れやすいかどうかで判断する日本の診断基準には、これらは含まれない。欧米の方が診断基準が厳しめといえる。

一方アジアでは日本と同様の基準が運用される流れになりそうだ。15年に日本は中国と韓国の研究者とともに連合組織をつくり、ドライアイの定義で合意した。今後アジアの他の国も加わる見通し。アジアの方が欧米より有病率が高いことを示唆する疫学研究もある。

ただ、ドライアイの詳しい仕組みは分かっておらず、研究すべき課題は多い。例えば涙の膜の破れやすさは、油層を維持する成分を分泌する「マイボーム腺」に問題があるとの考えもあるが、断言はできないという。最近では、痛みなどは神経が圧迫されるなどして起きる症状の一種ととらえる研究もある。

(猪俣里美)

[日本経済新聞朝刊2018年7月16日付]

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