映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』 苦い青春
言葉がスムーズに出てこないため発話が難しい吃(きつ)音症という病気の原因はまだよくわからないというが、当の本人にとって苦悩は大きいだろう。そんな悩みを抱えた女子高生を主人公にした青春ドラマであり、漫画家の押見修造が実体験に基づいて描いた同名の人気漫画の映画化である。
高校1年の新学期。志乃(南沙良)は自己紹介で言葉がうまく出ずに笑い物になってしまい、昼休みは1人で校庭の片隅で弁当を食べる日々を送る。そんな志乃が自分から声をかけたのは、同じクラスで誰とも打ち解けずにいつも1人でいる加代(蒔田彩珠)。
加代の趣味はギターを弾くことだが、歌うとかなりの音痴。2人で行ったカラオケで志乃が綺麗(きれい)な歌声でつっかえずに歌えるのを知った加代は、一緒にバンドをやろうと提案。2人は文化祭に向けて特訓を始め、やがて街なかの路上で歌い始める。
志乃のボーカルと加代のギター。2人は互いに欠点を補い合いながら関係を深めていく。ある日、同じクラスの男子生徒の菊地(萩原利久)が2人の路上ライブを偶然見てしまう。菊地はクラスのお調子者だが、実はいじめられっ子で孤立していた。
そんな菊地が仲間に入れてほしいと願ったことから志乃と加代の関係に亀裂が入る……。吃音に悩む志乃、ミュージシャンを夢見ているが歌の下手な加代、クラスメートに相手にされない菊地。心身ともに悩みを抱えた3人の孤独な姿を通して、誰もが経験する青春の苦い痛みがじんわりと胸に響きわたる。
本作が商業映画の長編デビュー作となる湯浅弘章監督は、足立紳によるシンプルな脚本を手堅く素直に演出し、思春期の若者たちの繊細な心情を巧(うま)く引き出している。主演した南沙良と蒔田彩珠の若い女優2人の好演が見ものである。1時間50分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年7月13日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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