ロボットの表情にミカン味 岐阜の鮎菓子、新作続々
「岐阜土産に何を買ったらいいものやら」。岐阜市を訪れた人が頭を悩ませるのが、土産にふさわしい著名な菓子が少ないことだ。そうしたなか、全国に通用する土産を育てようと、地元銘菓「鮎(あゆ)菓子」の新作を増やす試みが市内で続いている。
6月3日の日曜日、いつもは静かな岐阜商工会議所のビルの前に朝から行列ができた。同商議所が開く「鮎菓子たべよー博2018」だ。岐阜県の古田肇知事も開会式に出席した。
鮎菓子はカステラ状の生地でもっちりした求肥(ぎゅうひ)を包んだものが一般的。焼き印で目などを描き、魚に似せている。イベントは3年前から過去3回開いており、今回は市内の約40軒の製菓店などが自慢の鮎菓子約100点を販売した。約6500人の来場者の関心は、この日限定で売られる新作だ。
和菓子店の緑水庵は県立岐阜商業高校の生徒と新しい鮎菓子を考案。県内産の緑茶の葉を練り込んだ品と、焼き印を工夫してアユの表情をロボット風などに仕立てた品を会場で販売した。
女将の藤吉里美さん(51)は市内の菓子業界で多品種の鮎菓子作りを先導する一人。これまでも他の高校の生徒と作ったイチゴ味やカキ味の鮎菓子を定番商品にした。「高校生たちが大人になったとき、お土産にしてくれたら」との思いで高校生と製品作りに取り組んでいる。
老舗の玉井屋本舗が250個限定で販売したのは「鮎ぼーろwithあんばたー」。市内の洋菓子店と組み、アユの形にした同本舗の焼き菓子「丸ボーロ」にアズキ入りのバタークリームをはさんだ。3代目の玉井博●(示へんに古)さんは「アズキの入ったクリームの味わいをうまく出せた」と話す。以前同イベントに出したアユの魚醤(ぎょしょう)を使った菓子「極み鮎」を近く定番商品にする予定だ。
1933年(昭和8年)創業の月丘堂は求肥にミカンの天然果汁を入れて爽快感を持たせた「フルーツ鮎(みかん味)」をイベント向けに開発した。3代目の佐藤光明さん(50)は「最近は来店者に外国人も増えていて、和菓子の味が苦手な人にも売れる品を思案していた」といい、製菓の専門学校に通っていたころから温めていたアイデアを世に出した。今後は県内産のユズの果汁の入った鮎菓子も売り出したい考えだ。
岐阜商議所の村瀬幸雄会頭(61)は「京都の八ツ橋や広島のもみじまんじゅうのような土産に育てたい」と語る。今後も商議所はイベントを続け、新しい鮎菓子の誕生を促す考えだ。
鮎菓子は岐阜市内で約30店が製造しているが、京都や九州、四国などにもある。岐阜商工会議所は「発祥は京都だが、通年販売するのは岐阜だけ」と強調する。
岐阜市の玉井屋本舗は1908年(明治41年)の創業当時から現在まで「登り鮎」の商品名で鮎菓子を販売し続ける。店の近くを流れる長良川のアユをイメージした。味や表情の違いを楽しんでもらおうと、岐阜商議所は夏場に有名和菓子店の詰め合わせ「鮎めぐり」を売り出している。市内には鮎菓子の手づくり体験ができる店もある。
(岐阜支局長 小山隆司)
[日本経済新聞夕刊2018年7月5日付]
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