時代劇、衛星放送で新作続々 シニア層の支持厚く
BS・CS放送で時代劇の新作が続々と放映されている。一時は地上波から消え存続が危ぶまれたが、視聴者の年齢層が高い衛星放送で復調。撮影所でも後進の育成に力を入れ始めた。
「時代劇を見たい、という要望が多く寄せられている。氷山の一角といったレベルではないと感じる」。浅田次郎の小説をドラマ化した「黒書院の六兵衛」(22日午後10時~、全6回)を衛星放送のWOWOWで企画した武田吉孝チーフプロデューサーは語る。同局のドラマは現代劇が中心で時代劇の制作は珍しい。
同作は、幕末の江戸城無血開城を舞台に御書院番士と下級武士の友情を描く。企画を立てたのは2012年ごろ。11年にTBS系の「水戸黄門」が終了し、地上波民放局から時代劇枠が消えた時期と重なる。「お金がかかるわりに、視聴者層が年配に限られるというイメージで敬遠されていた。資金が集まりにくい状況だった」と武田チーフプロデューサーは振り返る。
しかし、近年はBSやCSで時代劇の制作が相次ぐ。昨年、BS-TBSで「水戸黄門」が復活し、現在はNHKBSプレミアムやBSジャパン「火曜ドラマJ」枠で定期的に連続時代劇が作られている。
若者向けの番組が多い地上波から離れた視聴者からの支持は厚い。幅広い年代を取り込む必要がある地上波に比べ、衛星放送は高い年齢層にターゲットを絞りやすく、WOWOWの加入者も50代が中心だ。
現代に通じる題材
大人を意識して、深みのある作品も増える。かつては決まった筋で話が展開する「ご存じもの」や勧善懲悪の物語が多かった。武田チーフプロデューサーは「今は形式だけでなく、何を描くかが求められている」と話す。「黒書院の六兵衛」では現代に通じるテーマを込め、「現場で必死に戦う男たちの姿は、今のサラリーマンも共感できる悲哀がある」(武田チーフプロデューサー)という。
衛星放送でのオリジナル時代劇の先例となったのが日本映画放送が編成するCS放送「時代劇専門チャンネル」だ。11年から毎年オリジナル時代劇を作り続ける。21日には池波正太郎原作・中村梅雀主演の「雨の首ふり坂」(午後7時30分~)を放映。老いた渡世人を描く人間ドラマだ。自らも時代劇の監督を務める同社の杉田成道社長は「以前は地上波の旧作を流すだけのチャンネルだったが、新作がなければ先はないと考えた」と振り返る。
技術が途絶えることへの懸念もあった。時代劇を支えてきた京都・太秦の撮影所スタッフは当時、70~80代が中心。松竹撮影所の井汲泰之京都製作室長は「生計を立てられる十分な仕事量がなく、40~50代の中堅が離れていった」と話す。東映京都撮影所の妹尾啓太所長は「経験を積ませる場がないことへの危機感があった。衛星放送で時代劇が作られるようになってずいぶん助けられた」と言う。
撮影所が人材育成
時代劇の制作で映画の伝統を受け継ぐ京都の撮影所が果たす役割は大きい。東映京都撮影所には敷地内に11のスタジオがあり、うち6つに武家屋敷や町家など常設のセットがある。同所で「黒書院の六兵衛」を撮影した武田チーフプロデューサーは「既存の設備がなければ、予算が膨らむ。経験豊富なスタッフの知恵もある。有形無形の遺産が助けになった」と話す。
こうした「底を抜け出しつつある」(井汲室長)状況を受け、両撮影所は人材育成にも力を入れ始めた。松竹撮影所は5年前に開講した「アクターズスクール」の中で殺陣や所作の講座を開く。東映も4月から俳優養成所に「殺陣専門コース」を開講。さらに脚本家と助監督を本社で採用し、1年半は京都の撮影所で学ぶ機会を設ける。
時代劇作りに通じた人材は一朝一夕には生まれない。「次世代を担う人たちを育て、伝統を守っていきたい」と東映の妹尾所長は力を込めた。
(赤塚佳彦)
[日本経済新聞夕刊2018年7月2日付]
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