映画『パンク侍、斬られて候』 展開ハチャメチャ
一見、時代劇のていをとっているが、ジャンルに到底おさまらないハチャメチャな展開をみせる。アナーキーな活力とナンセンスな哄笑(こうしょう)が渦をまく映画だ。
芥川賞作家、町田康の同名の小説を、宮藤官九郎が脚本化し、石井岳龍(聰亙改め)が監督した。
茶店のある街道で、浪人掛(かけ)十之進(綾野剛)が、いきなりバカ長いだんびらを引き抜いて、路傍にうずくまっていた男を斬る。
そのまま去ろうとする掛を、ここ黒和(くろあえ)藩の侍、長岡主馬(しゅめ)(近藤公園)が止めて問答になる。
彼らのセリフは、時代劇のゴザル調に現代口語が混入自由自在の奇妙なものだが、これが奇妙によく意を通じる。
さらなる奇妙は、彼らのこころの内をかたる、小説の地の文みたいなナレーションがはいりまくること。
この調子はつづき、はじめのうちは、冗談ではあるにしても「文学の映画化」みたいでやや鬱陶しくもあるが、展開が加速するにつれ気にならなくなり、終盤でこのナレーションが大きなギャグに転化する。
さて、掛は、斬ったのはこの者が「腹ふり党」の一員だからと主張。奇怪な宇宙観をもち、腹ふり踊りに陶酔する、このカルト集団が侵入してくると藩は滅亡してしまう、と対策の専門家づらして仕官をねらう。
腹ふり党をひきいるカリスマ、茶山半郎(はんろう)の浅野忠信のメイクと演技がすごい。狂気がぬらぬらとせまってくる感じで、これを見て笑い出さない人はない。彼と幕暮(まくぼ)孫兵衛の染谷将太の腹ふり踊りときたら、それこそこちらが抱腹絶倒だ。
ふくれあがった腹ふり党に対抗するのは、人語を話す大猿、大臼延珍(でうすのぶうず)(永瀬正敏!)ひきいる猿軍団。超能力者もからんで見たこともない奇天烈な戦(いくさ)となる。
最後をキメるヒロイン、北川景子の美貌をぜいたくにつかった映画でもある。2時間11分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2018年6月29日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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