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在日クルド人が東京案内 「難民の目」で捉え直す

2018/6/26付 日本経済新聞 夕刊

ワークショップでクルド人男性(左から2人目)にインタビューする高山明(右)

日本に住むクルド人が東京を案内する「修学旅行プロジェクト」が進行中だ。「ツアーパフォーマンス」と銘打った参加型アートの一つで「難民の視点」で東京を捉え直すのが狙いだという。

5月下旬、約10人のクルド人が東京近郊にある公共施設の一室に集まった。「私たちは(トルコ東端の)アララト山を崇拝する。だから山は好きだね」。一人の男性はこう口にした。

■参加型アート

「新・東京修学旅行プロジェクト」と題した参加型アート企画に向けたワークショップでの一幕だ。主導するのは、演出家の高山明。かねて観客参加型の演劇公演を手掛け、2006年から「ツアーパフォーマンス」に取り組んできた。

ワークショップでは、クルド人の中高生が東京に修学旅行にやってくると想定し、日本に暮らすクルド人が自らの文化や歴史に関連のある場所を案内するという設定で行程を練る。行き先は、高山が主宰する創作ユニット「PortB」のメンバーや日本人の一般参加者とも論議を重ね、絞り込んでいく。7月13日からは実際に2泊3日の予定でクルド人参加者が案内役となって東京を巡る。プログラムの一部では、在日クルド人や日本人の参加も受け付ける。

議論は多岐にわたった。富士山に興味があると聞いた日本人参加者は「東京各地にある富士見坂からはきれいに見える。訪れるのはどうか」と提案。クルド人参加者からは「古い建物の解体作業に従事する際、関東大震災の遺構をよく目にする」「化学兵器で約5千人が亡くなった『ハラブジャ事件』の歴史があるので、ヒロシマやナガサキには関心がある」といった話が出た。

こうした議論をもとに、遺構をつないだ地下マップを作成したり戦争関連の資料が見られる記念館を訪れたりする案も上がる。「修学旅行」終了後には、参加者が手にした「旅のしおり」をホームページで公開し追体験できるようにする。

「東京修学旅行プロジェクト」台湾編では新宿センター街も巡った

今回の企画は社会変革を目指すプロジェクト型アート「ソーシャリー・エンゲージド・アート(SEA)」を助成する国内初の事業で支援対象に選ばれた。高山は昨年「東京修学旅行プロジェクト」の台湾編・タイ編・中国編を実施。東京に来たアジアからの修学旅行生を案内するという設定でPortBメンバーを中心に行程を作成。交流サイトで日本人参加者も募った。

アジアの視点で東京を再発見する試みは、13年に実施したツアーパフォーマンス「東京ヘテロトピア」でも取り組んだ。ガイドブックとラジオを手にした参加者がアジアにゆかりの深い所定の場所を訪れ、周波数を合わせると、その地にまつわる物語を聴けるようにした。物語は作家や詩人らに書き下ろしてもらった。

■準備から関わる

今回は案内役という設定のクルド人が事前準備の段階から行程作りに深く関わった。PortBメンバーだけで行程を決めるほうが簡単だが、「他者の視点を取り入れることが大事」(高山)との考えからだ。

クルド人は「国家を持たない最大の民族」といわれる。現在、日本国内に約2千人がいると推定され、迫害を理由に難民申請中の人も多い。シリア内戦などを機に、日本でも難民問題への関心は高まっているが、欧州などと比べると難民と接する機会は少ない。「他者を受け入れるのはすごく難しいこと。せめて受け入れられる場所を作り、その人たちの身になって考えたかった」と高山は話す。

「難民の視点」で東京を見直すことで難民への関心を高めてほしい。そんな狙いがあるからこそ、高山のツアーパフォーマンスはSEAとして注目を集めるのだろう。

(村上由樹)

[日本経済新聞夕刊2018年6月26日付]

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