渡辺貞夫と山下洋輔 ジャズ巨頭が相次ぎビッグバンド
渡辺貞夫(85)と山下洋輔(76)。日本を代表するジャズの巨頭が自身のビッグバンドで相次ぎ公演する。直球の渡辺、変化球の山下。全く違う2人の個性がそのままバンドに反映されている。
山下洋輔 皆で勝手にアドリブ
山下洋輔は2006年に国内のミュージシャン15人を集めて「山下洋輔スペシャル・ビッグバンド」を結成した。「組曲《展覧会の絵》」「交響曲《新世界より》」「ボレロ」といったクラシックの大曲、名曲を原曲とは全く趣の違う斬新なアレンジで演奏し、高い評価を受けてきた。
「大人数のビッグバンドの一人ひとりがアドリブ(即興演奏)をしまくり、暴れ回る。これが快感なんですよ。僕たちが演奏した『ボレロ』を聴いた作家の筒井康隆さんが『脱臼したボレロ』と評してくれた。僕はそれを自慢にしています」と山下は笑う。
7月13日に東京・赤坂のサントリーホール、同22日には埼玉・所沢のミューズアークホールでビッグバンドコンサートを開く。「ボレロ」のほか、山下が自身のトリオで演奏してきた「クレイ」や「グガン」「ミナのセカンド・テーマ」といったオリジナル曲を組曲に編曲して演奏するのが聴きどころ。その名も「組曲 山下洋輔トリオ」だ。
すべての曲をトロンボーン奏者の松本治が編曲している。山下は「全部松本さん任せだけど、僕は勝手に弾いていい。そこだけは許されているんです。自由に泳ぎ回って、泳ぎ終えたときの合図だけは決めています」と明かす。
フリージャズだが、楽譜は書かれている。「楽譜を見ながら演奏しますが、余白がたくさん作ってあって、みんな好き勝手に演奏するわけです。にもかかわらず、何となく呼吸が合い、実にジャズらしいサウンドが出てくる。全員が一騎当千のジャズミュージシャンですからね。自由奔放なようでいて、肝心な部分はバシッと合う。そこがビッグバンドの醍醐味です」と山下は話している。
渡辺貞夫 大人数で1人のよう
渡辺貞夫が国内の若手を集めて17人のビッグバンド「渡辺貞夫オーケストラ」を結成したのは1996年のことだ。2014年に当時の面々を中心に再集結して以来、折に触れてビッグバンド公演を開いている。
今年8月31日~9月2日に東京・渋谷で開かれるジャズフェスティバル「東京JAZZ」にも、このビッグバンドで出演する(2日夜の部、NHKホール)。
渡辺は「いつもバンド全体のグルーブ(リズムの乗り)を求めています。一体感が欲しいんですよ。実は大人数でやっているのに、まるで1人が演奏しているように聞こえたらいいなと思っています」と語る。
レパートリーは自身のオリジナルや旧友ゲイリー・マクファーランドの曲、ビッグバンドの定番曲など様々だ。アレンジは結成時から一貫してトロンボーン奏者の村田陽一が手がける。
「目の回るようなトリッキーな音楽ではなく、鼻歌でも歌えるメロディアスな音楽を書くと、貞夫さんは喜んでくれます。大音量で華々しく鳴らすビッグバンドも少なくありませんが、貞夫さんは『ヒステリックになるな』『もっと楽に』が口癖で、力任せの演奏を嫌うんです。鼻歌を歌うような調子が、僕らの目指すところ」と村田が明かす。
渡辺は「メンバーは僕より30歳ぐらい若い連中ですから、そういう世代とやれること自体がうれしいんですよ。互いに鼓舞し合い、良い演奏ができたらいいと思っています」と話す。
渡辺貞夫と山下洋輔。リーダーの個性次第で、バンドの在り方もここまで違う。この夏は両者を聴き比べるチャンスといえそうだ。
(編集委員 吉田俊宏)
[日本経済新聞夕刊2018年6月25日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。