良質な肉、強いうまみに弾力 福島・川俣の川俣シャモ
絹織物で栄えてきた福島県北部の川俣町。この町で長く愛されてきた名産が「川俣シャモ」だ。地鶏のうまみと肉の弾力に魅せられたファンは県内外に多く、和食はもちろん、洋食、中華の食材としても人気が高い。その背景には、町が一丸となった品質保持への取り組みがある。
JR福島駅から路線バスに40分ほど揺られ、阿武隈山系の自然に囲まれた川俣町の中心街に到着した。まず向かったのは山間地にある鶏舎。中に入ると、平飼いされ、元気に走り回る数百羽の川俣シャモが目に飛び込んできた。
「自由に走り回れる環境と阿武隈山系のミネラル豊富な井戸水、わき水が肉質の良さや強いうまみを生んでいる」。川俣シャモ肉の品質管理や加工販売などを手がける川俣町農業振興公社の笠間英夫社長(63)は話す。
川俣町では古くから機屋の旦那衆が娯楽として「闘鶏」を楽しんだ。町内では長く軍鶏(シャモ)が飼われ、1980年代に入ると町は地元の名産としてシャモ肉を開発することを決める。純系のシャモとほかの品種と交配させ、川俣シャモが生まれた。
町と振興公社、同公社の子会社の川俣シャモファーム、地元農業従事者の4者がスクラムを組み、一鶏舎あたりの飼育羽数や飼育期間などを細かく規定してブランドを維持している。
その味を堪能したいと、中心街に戻り、豊富なシャモ料理をそろえる「えん屋」ののれんをくぐった。オーソドックスに親子丼をいただくと、長く忘れていた懐かしい地鶏本来のうまみに驚いた。添えられた胸肉のタルタルサラダもおいしい。
親子丼は東京・日本橋の老舗鳥料理店「玉ひで」から町内の飲食店に伝授された調理法で作られている。店主で川俣シャモ料理研究会会長の池田義寛さん(44)は「新メニューの開発などを町ぐるみで進めたい」と話す。
割烹(かっぽう)居酒屋の「松よし」では、すき焼きのコースをいただく。すき焼きはスネ、モモ、胸、ささみ、レバー、ハツなど様々な部位を楽しめる。「川俣シャモの真骨頂である肉の弾力やうまみ、香りを楽しめる最適な料理がすき焼き」と店主の松沢嘉一さん(55)は話す。
コースはすき焼きのほか、希少部位のソリレスなどを使った焼き鳥、ロースト、レバーのカナッペ、てんぷらとシャモ尽くしだ。スープを葛で固めた創作料理もある。東京の名店やドイツで修業を積んだ松沢さんは「東日本大震災からの復興のためにも、川俣シャモのレベルの高さをここから発信したい」と話した。
川俣シャモに広く親しんでもらいたいと毎年4月下旬に福島市で、8月下旬に川俣町で開いているのが「川俣シャモまつり」だ。2日間にわたって料理の早食い競争やシャモの鳴きまねコンテストなどが行われ、子供からお年寄りまで楽しむ。
中でも必見は、世界一長い川俣シャモの丸焼きづくりと、世界一長い焼き鳥ジュニア選手権。今夏は8月25日、26日に開かれる。震災と原発事故からの福島の復興につなげようと、福島県外からも多くのファンがかけつけ、会場を盛り上げている。
(福島支局長 田村竜逸)
[日本経済新聞夕刊2018年6月21日付]
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